アイコニック・エンカウンター:虫の女神の信者と囁きの女神の信者

メリシエルは深く空気を吸い込み、息を止め、それからゆっくりと吐き出して、リラックスしようとした。彼女の腕はバランスを保ち、掌を上向けたまま、細い椅子のアームレストに添えられていた。うまくいかない。彼女の腹部はきっちりと締まったままで、「腹の虫」が騒いでいた――カリストリアの教会が「仕掛けが全て終わる前にやってくる疼き」と呼ぶ、腹の底にたまる緊張のことである。だが、これは虫が騒ぐような複雑な仕掛けでも、長年に渡る復讐でもない。メリシエルはどうにか思い出そうとしていた。これは、自分が身を任せた何かのことなのだから。

神経を逆立たせるような状況を自分自身にもたらすのは、特に新しいことでもなかった。

ハースクが、どのようにドロスカーの信者達が巨大な神殿の下に宝物を隠したと思われるのかについて言及したのを受けて、巨大な金床の土台のにあった狭い隙間に、頭から突っ込んで這い進んだことがあった。
あるいは、ヴァレロスがアブサロムへの長い旅路の間に、どちらが酒に強いか飲み比べをしようと挑戦したこともあった。
そして、レムを載せて旗をオーガの下着と取り替えるためにヘルナイトの城の尖塔の頂上に登ったときのあの顔を忘れることなんて誰にも出来ない。

そして勿論。
サンドポイントであの魅力的なクレリックに最初に出会ったときにやった曲芸も。
メリシエルはアンデッドの蜂起を退ける方法は一つではないと示すために、グールの群れとの戦いのまっただ中に自らの身を投げたのだ。

そういったふざけた態度を振り返り、メリシエルは腹の虫が落ち着いたのを感じて安堵の溜息をついた。

結局のところ、金床の下の隠し場所から回収した魔法のポーション、巻物、そして護符は、煙をまとったアンデッドの守護者が立ち上がって刃向かってきたため、さほど多くの日々を守ることにはならなかった(まず守護者の注意を惹きつけてしまったのは、寺院の宝を盗掘したためだという事実は気にしないことにする)。

そして善良な年上のヴァレロスはまだ、メリシエルが飲み比べを公正に、そして真面目に戦って勝ったのだと信じていて、聞く者全てにメリシエルの頑健さを自慢している(メリシエルの考えでは、飲み物をほんの少し、手先の早業でどうにかするのは自分の力を使っているに過ぎない――バレなければイカサマではないのだ)。

また、あの忍耐のないヘルナイト達は紋章の改装をすぐに行ったのだ(更に言えば、メリシエルから話を聞いた全ての者が、オーガの下着は退屈で古めかしい旗よりもヘルナイトの旗竿に飾れば見栄えが良かった)。

そして、グールを殺すための賭けについては、メリシエルは、ああいった汚れた古いグール達はメリシエルを麻痺させることなど出来ないから、あの愚かな行いはいささかも危険ではなかったと知っていた。彼女はあらゆる深刻な噛み傷を避けるようにしていたが、最後のグールをダガーで倒した頃には、爪の傷痕だらけで、失血のあまり目まいを覚えたものだった。

当然ながら、その目まいは、つまずきそうになった時にあの魅力的なクレリックが急いで受け止めてくれて、傷を癒やし始めた際、悪化するだけだった。メリシエルはあちこちで彼女にキスをしたくてたまらなかったが、あおn厄介な腹の虫がその邪魔をしたのだ。今もまだ、メリシエルはキーラにとって印象的な人物であるに違いなかった。それからそう長くも経たない内に、彼女たちは最初のキスをしたのだ。

あの瞬間はドラゴンの宝の山よりもずっと素敵だった!

その時と同じように、彼女が疼きを沈めるために行った全ての作業がどこかへ飛んでいった。キーラのことをただ考えるだけで、腹の虫が戻ってきたのだ。メリシエルは不思議に思わずにはいられなかった。私の恋したあの人も、同じ疼きを抱いているのかしら、この部屋の一つ向こうで? メリシエルには想像が出来なかった。キーラは常に落ち着いていて、揺らぎがなく、自信に満ちている。そして、サーレンレイの教会は恐らく、これを腹の虫とは呼ばないだろう。恐らく……太陽の虫? 天使の痛み? 太陽花の疼き? それとも昇天?(訳注:原語はhealy heavesだがheavenlyの脱字か)最後の概念にこのエルフの唇はくすくすと笑いを浮かべた。そして、その動きが緊張を帯びていることに彼女は自ら、驚いた。彼女はみみずのようにのたくったリボンに触れるために手を伸ばしたが、当然、それは助けにならなかった。儀式で使うため、大祭司に黄色と黒のカリストリアのリボンを渡していたのだ。

メリシエルは椅子から降りて、頭の中で儀式でも自分の役割を思い描きながら、部屋の隅から隅まで歩いた。ここは、全ての壁をサーレンレイの絵と図像で囲まれていて、どうしても不満を感じてしまうのだった。

だって、こんな美しい場所でどうやって、家族のいない、盗賊で密輸人で、欺きと復讐と快楽の女神の気まぐれな信奉者であるエルフが、居場所を作れるっていうの? 今まで会った中で一番優しくて、理解がある人達に、どんな居場所をあげられるっていうの?

メリシエルは、そういった疑問を脇に置いて、別のことを思い出すことにした。
一週間前の夜、その夜のほとんどの時間をかけて、自分とキーラで心結びの儀式に参加しようと提案するための勇気を培ったこと、キーラが、メリシエルが提案したことに驚いていたことを。
儀式の調査と準備のために数ヶ月をかけたにも関わらず、これは厳密にはメリシエル自身の計画ではなかった。
結局のところ、キーラが最初に提案したことだったのだ。

メリシエルの神経質な考えは、保留中の儀式の「もしかしたら」に戻り続けていた。彼女とキーラは、この魔法の焦点として、儀式の二次参加者に過ぎなかったが、それはこの魔法の起動において彼女達の役割が重要ではないということではなかった。メリシエルはキーラが、口にするべき正しいことを知るための手管を使って儀式の自分の役割をおこなうことを知っていた。だがメリシエルは社会全体の内外を知る技能に頼る必要があった。
あらゆる儀式と同じように、反動の可能性があったが、心結びの儀式を失敗した者を襲う疼きと揺れ、機知の鈍化といった奇術は、彼女が既に処理している腹の虫よりも遙かに悪いものだとは思えなかった。

そしてもちろん、全てが計画通りに進んだ場合、彼女達は互いへの愛の宣言という大切な思い出以上のものを得られるだろう――彼女達は以前よりもずっと深いレベルで繋がり、お互いの場所を感知することが出来て、考えや希望を共有し、孤独を感じることがなくなるのだ。メリシエルは伝統的な一対の指輪でキーラが儀式を完了したがっていると思っていた。

準備として、彼女は実際、思い出せる限り始めて、宝石を購入した(この場合、略奪品や盗品はふさわしくないように思えたのだ)。ただキーラは、絆を象徴するためにカリストリアの曲がりくねったリボンを使うことを提案したのだった。キーラはメリシエルの衝撃を、言葉にならない愛以外の何かだと思ったに違いなかった。彼女は急いで付け加えたのだ。

「私の教会のやる儀式をやらなきゃいけないってプレッシャーがあったでしょう? あなたに関わる要素がある方がいいと思ったの」

もし衝動的なキスで止めなければ、そういう風に言葉が続いていただろう。
扉がノックされて、彼女の落ち着いた歩みと、はやる思考とがぴたりと止まった。

「大祭司様がお呼びですよ」

待祭の声がした。

「わかったわ!」

メリシエルは答えながら、自らの声に神経質な震えが交じるのを耳にして顔を赤らめた。彼女は呼吸をしてから、扉に向かって足を進めた。扉の向こう側から音楽が大きくなっていくのも、シオニがヴァレロスに「もう来るから静かにね」と諭すのすら、聞こえていた。腹の虫は戻り、これまでより悪化していた。扉を開ける自分の手が――いつもは安定していて、精確なはずの手が震えていることに、彼女は驚いた。

その時。部屋の端に彼女が立った時。
友人(のほとんど)が静かに壁沿いに集まっているのをぼんやりと認識しながら。

彼女はキーラが反対側の通路から入ってくるのを目にした。

そして一瞬ののち、キーラの唇が動いて、メリシエルは愛する人の声が耳にささやきかけるのを感じた。もしこの儀式が本当に成功したなら、彼女達は二人とも、思考で互いに話をすることが出来るようになるはずだったが、この瞬間については、キーラがまじないをかけたのだと分かった。

「行きましょう、メリ! あなた、とっても素敵よ! 私がこれを台無しにしちゃわなきゃいいんだけど……腹の虫が騒いじゃって」

その言葉で、キーラは苦も無くメリシエルの神経を宥めた。そして、キーラだけに向けられた囁き声の返答と共に、彼女達は共に部屋の中へと歩み出した。


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