風謡いの聖典:時間の対価

数多なる者シャイカShyka the Manyのトロフィー・ルームには、この老いたる者Eldestが昔から貯め込んできた無数の宝物の間に、骨と黄金が縞のようになって出来た玉座がある。
玉座の上には、黒い色が血管のように差した赤い瑪瑙がある。それは大きなバロック・パールを思い起こさせるが、あらゆる真珠貝の生み出す物よりも希少である。なぜなら、これはリッチ王ダロカスDarocathの心臓石なのだから。
これはダロカス自身の意志によってこの玉座に鎮座しているのであり、一撃も与えることなしにどのようにして数多なる者シャイカがこのリッチを打ち倒したのかを敬意を持って示しているのである。

それはこの通りであった:

むかしむかし、不滅なるウースタラヴ公国の小さな、忘れられた片隅に、クリサーラKrisallaという名前の少女がおりました。彼女は並々ならぬ忍耐力のある子どもで、シャイカは彼女に興味を持ちました。老いたる者は適切に時間というものを取り扱う定命の者の価値を知っていたのです。
ある晩、黄昏の闇を夏の蛾が束の間、横切った時に、老いたる者はこの子どもの前に現れました。

「そなたは定めに触れたいと願うか?」

シャイカは尋ねました。
クリサーラは青いガウンをまとった人影を見上げました。彼女には、目の前の人物が明るい茶色の膚と、先っぽが銀色の髪をした、人間のようでそうでない、年齢というもののない女の人に見えました。

「どうやって?」

「そなたは恐るべき力を持つソーサラーを下すだろう。そのソーサラーは骨ばった拳でウルカザールUlcazar全てを掌中に収めることになる、生もたぬ怪物なのだ。そなたは残虐なるその者の統治を終わらせる。生き延びた者たちはそなたの名を覚え、そなたは英雄になる。だがこれには対価が必要だ」

「対価はなに?」

クリサーラは尋ねました。何故なら、彼女はウースタラヴの子どもで、その呪いの凄惨なやり方を知っていたのです。

「一つの命」

シャイカは答えました。

「そなたのものではない一つの命だ」

「受け入れるわ」

クリサーラは言いました。

袖の中に隠れた手首鞘から、シャイカはひび割れた砂時計の形をした白いリボンで結び留められた巻物を取り出しました。この巻物は、シャイカの書庫にあったものでした。シャイカの書庫では、未来の記録が過去に書かれるのです。シャイカはそれをクリサーラに渡しました。そして少女がシャイカのすらりとした指からその巻物を受け取ると、老いたる者はちかちかと明滅し、威伏はそのままに、両性具有の若者へと変化したのです。ですが、今やシャイカはその首に違ったシンボルをつけていました。
クリサーラはこれに驚くことはありませんでした。だって、神さまが変身したって驚くことなんてありません。

「この巻物で何をすればいいの?」
「そうしたいなら読めばいい」

そう、シャイカは言いました。

「でもね、ほとんどの定命の者というのは、未来を知らぬ方が幸福なのだ。読まないのなら、安全なところにそれを保管しておくがよい。時がくれば、そなたには分かる」

そして老いたる者は去り、クリサーラは一人きりになりました。

数十年が過ぎました。少女は女の人になり、結婚し、三人の娘が出来ました。彼女の夫は病にかかり、亡くなりました;次々に彼女の子ども達は母親になりました。
そしてこの時、遠くから、冷たく枯れた影が最初に、ウルカザール中に伸び始めたのです。骸骨達とレイス達が山々の暗い場所から蘇り、憎むべき死者の軍勢として集ったのです。彼らの首魁であるリッチ王の噂はだんだんと近くへ差し迫ってきました。そして今や老女となったクリサーラはついに、シャイカの贈り物を使う日が来たのだと知ったのです。

彼女は巻物を開けました。恐れを湛えた瞳と震える手で、彼女はシャイカがずっと昔に書いたものを読みました。それから彼女は巻物を再びたたみ、涙を浮かべて目を閉じ、最も若い娘に手紙を呼び寄せました。

「お前はすぐにウルカザールを逃げなきゃならない」

クリサーラは娘に伝えました。

「でなければ、お前の命がないのだ。ソーサラーのリッチ、ダロカスがやってこようとしている。そして神様は、ダロカスがお前をウルカザールで殺すとお書きになっているのだ。だから、精一杯に急いでお前はアマーンズに行かなけりゃならない。ここに残れば、確実にお前は死ぬのだ」

「ええ、お母さん」

と彼女の娘は言いました。そして、逃げたのです。

ですが、母も娘もダロカスが既にウルカザールに来ていることを知りませんでした。リッチの軍勢はボルゾフの集落の境界を抑えており、そこでクリサーラの娘を捕らえました。ダロカスの手勢は彼女を殺しましたが、その前に彼らの主人は神の予言を逃れるためにウルカザールを逃げようとした女のことを聞きつけたのです。

好奇心に突き動かされ、ダロカスは自分の軍勢にクリサーラの村落に行くように命じました。そこで彼らは老女を捕らえたのです。彼女からダロカスは話を聞き、巻物を得ました。それから、他のものに目もくれずに年老いた者のメッセージを研究するために、ダロカスはクリサーラが家族と涙するのを放っておいたのです。彼は堪えきれずにクリサーラの過去の人生の物語を斜め読みし、自分のために書かれた言葉を目にしました:

「そなたは永久なるすまいHouse of Eternityに来ることになるだろう」

と書かれていました。

「そして、そなたは命を落とすだろう」

ダロカスは一笑しました。何世紀にも渡ってなかったことでしたが、彼は自分が進む道を見つけるためにシャイカが与えた導きを読み、楽しい気分になったのです。

「俺は死んでいるぞ」

リッチは自分の部下の指揮官達に言いました。

「それに俺は時間の監視者を恐れぬ」

実のところ、何年もの時間を積み重ねて、ダロカスは永久なるすまいへの道を探していました。それこそが、このリッチが定命の者の寿命を越えて惹きつけられていた時間の操作と未来の謎だったのです。今やそのあらゆる秘密が自由に彼に与えられており、怯えてその鍵を使わないことなど有り得ませんでした。
軍勢を放棄して、ダロカスはファースト・ワールドに通じる狭間を突き進みました。それから、シャイカが永久なるすまいへと導くために用意した、もつれた険しい道に進んだのです。

老いたる者は彼にそこでまみえました。

「リッチよ」

「数多なる者よ」

ダロカスは、半ば忘れていた好奇心でもってシャイカのことを知ろうとしました。このリッチは、一定の時間にわたって目視していられるように視覚を訓練していたので、シャイカが複数の顔と身長にぶれる人影であることを見てとったのです。

「貴様が俺をここに招いた」

「死ぬために」

とシャイカは同意しました。

「書庫に来たいかね?」

「何を読む許可をくれるんだ」

ダロカスは尋ねました。彼は老いたる者の制限に従うつもりはありませんでしたが、好奇心があったのです。

「なんでも」

シャイカは言いました。

「私がそうするのと同じように書庫を歩く許可を与えよう」

疑いながらも好奇心を惹かれて、リッチは老いたる者の後について山のきざはしを上りました。口を開けた入り口にたどりつくまで、この城の崩れたふもとをぐるりと回って歩いたのです。入り口にはさび付いた棘と、年月によって色あせた木材の破片が目立っていました。その中で、永久なるすまいは外と同じく補修されておらず、ほこり、蜘蛛の巣、古くさい家具といった全てのもので陰鬱な様子になっていました。

書庫の本はカビの目立つ木の本棚の上に垂れ下がっており、巻物は年月を帯びてもろく、黄ばんでいましたが、それでもダロカスは畏敬の念を呼び起こされました。リッチはほとんど、学者達の本に目もくれませんでした;彼がここへやってきたのは、シャイカの書いたもののためだったのです。

「これを読んでもいいのか?」
「そうだ」

老いたる者は言いました。
だから、ダロカスは書庫に入りました。

一年間と一日の間、ダロカスは老いたる者の未来の日誌に専念しました。外の世界では、彼の軍勢は怠慢と内輪もめのために崩壊し、彼の塔にかけられていた呪文の防護は手入れをされなかったため、崩れました。リッチは時間という糸を操作するための自分の実験を忘れてしまいました。だって、既に自分のために整えられている秘密を暴くために、どうしてそんなに大変な苦労をしなくてはならないはずがあるでしょうか。

リッチが知りたかったものは全て、彼のものになりました。彼が抱くあらゆる質問には答が与えられ、考えるより前に答えられていたのです。数多なる者シャイカの書庫で、彼は時間の地図がその謎の前にさらされているのを見ました。そしてダロカスは恐ろしいことを理解したのです。

このように生きるということは、あらゆる瞬間において同時に、好奇心を持たずに存在するということだったのです。運命を学ぼうという彼の全ての努力が無となり、選択と制御という幻想はただそういうものでしかなく、彼という計り知れない輝きと魔法を持つ生き物ですら、運命の緩やかな罠から逃れることが出来ないのだということを、理解したのです。

全てのものが既知であり、あらゆることが既に記述されており、不思議に思うべきものは何もなかったのです。

リッチは静けさの内にこの真実を抱いて座り、一日と一夜、そのことを何度も引っ繰り返して考えました。
ダロカスは自分の結論に間違いを見つけることが出来ませんでした。書庫に、答は書かれていました;結果は前もって決まっていたのです。

そして彼は自分の生を持たぬ心臓にはまっている石を抜き出し、降伏して台座の上に置き、失意の中で自ら塵となって崩れ去ったのです。

そして、書庫のほこりっぽい片隅で、この強力なリッチが開こうと決して思わなかった、目立つところのない本のページの上で、文字がわずかに変化しました。ほんの少しだけ。なぜなら、ダロカスの物語の終わり方は変わらなかったのですから。


作者について
Liane MercielはPathfinder Tales novels Nightglass, Nightblade, Hellknightの著者であり、Nidal: Land of Shadows, Faiths of Golarion, そしてthe Lost Omens World Guideにも寄稿している。彼女はまた、Dungeons & Dragons, Warhammer: Age of Sigmar,そしてBioware’s Dragon Age franchiseでも書いている。彼女は夫、2匹の犬、そしてスパイダーマンに夢中の冒険者の子どもと共にフィラデルフィアで暮らしている。

風謡いの聖典について
ヴァリシアのロスト・コーストの北端にある風謡いの修道院は、20近くの異なる信仰を持つ司祭達によって維持されている、信仰間の議論をするための場所で、仮面の修道院長によって率いられている。失われし神託の時代の始まりに、風謡いの修道院はその信者の戦いと逃亡という苦難を経験したが、今日では再興し始めている。新しい仮面の修道院長は新たな聴衆を導き、風謡いの聖典―神々そのものの寓話―が再び、修道院の壁に記録され始めた。これらの聖典の中には、ゴラリオンの神話や伝説として示されている者もある。真実もあるかもしれないが、偽りもあるだろう。どれが真実でどれが偽りであるかは、信者が決めることになっている。

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