Tales of Lost Omens:偶像と大鎌

伝説によれば、フォッグ・ピーク・ホールドに訪れた終焉を生き延びたのは、たった一人の男だった。
パスファインダー協会の賢者達は、それは間違いだというだろう。五人がどうにか生き延びたが、いまだ正気でいる者はたった三人しかいない。東の小道の崩落という小さな問題によって、その時点ではフォッグ・ピーク・ホールドは無意味なものとなっていた。そして、私が思うに、タルドール人達がここ数百年、他のことで忙しかったので、その場所は再占領されたことがなかったのだろう。

この倉庫の最後の主が奇妙な習性を持っていたことを知っていたとしても、別に誰もがその場所に興味がなかったという意味ではない。冒険団長のケリヴィク・ストームハンドは倉庫の蔵書室に収納されている古い地図を熱心に手にしたがって(もしくは目にしたがっていた)いたし、私のような何人かの人は、黄金の像に興味を持っていたと噂される最後の主について強く興味を惹かれていった。そして、そう、イルヴァーナ、彼女はケリヴィクのお気に入りの傭兵だった。彼女は彼が行くところにどこへでもついていった。たとえそこが、タルドールの荒野の禁じられた頂への道のりにあったとしても。

交互に折り返す階段が続き、それから岩の斜面が広がった。古い真鍮の門の前に、3段の階段だけがある。それでも、ケリヴィクは山登りの達人で、私たち3人を安全に持ち上げてくれた。――次は、私の出番だ。
罠のかかった場所を解除するという作業の痛ましい詳細を語ってあなたを退屈させようとは思わない。あなたが私の素晴らしい解錠道具についてよくよく知っているってことは、分かっているからね。すぐに、私たち3人はメインホールへと降りていった。

フォッグ・ピークでは風がかなり邪魔だった。それに、高窓の古い木製のシャッターが腐っていたから、倉庫中を自由に暴れまわっていたわけ。なんと、ケリヴィクが気を付けろ、なんて漏らすのよりずっとはっきり風の呻き声が聞こえるのだ。ことあるごとに、ホール沿いに並ぶ鎧を風がガタガタと鳴らしていく。そのうちの幾つかは、何年もの間、重力に屈して倒れていたが、ほとんどは昔に放置されたままに立っていて、長らく姿を見せない所有者達はいつでもそれを身に着けて戦うことが出来るようだった。

ケリヴィクは封じられた戸口を調査するために立ち止まった。私は、ほんの数歩離れた台座を照らしている、独特な温かい輝きを見つけ、そこに向かって歩き出した。黄金だ。私の顔に傷跡があるのと同じくらい確実に、これは黄金だ。それは、蜘蛛の巣に絡めとられ、呻き声をあげる、すらりとした、角のある男の像だった。彼はひざまずいている。ここの前の主人が悪魔の伝承に興味があったと聞いたことがある。これは協会の大書庫にとってかなりの恩恵になるだろう――もし、エアンド・クラインと封印の衛視(ヴィジラント・シール)が取っていかなければ。

像のところにたどり着くと、風が再び吹き上げ、後方から重量のある叫び声が聞こえた。それはイルヴァーナの驚きの叫びと、そして、間近にあった防具ががたつく音だった。

悪魔めいた遺物から目を離さないまま、騒ぎに目を向ける。己の悪名高い鋭敏な感覚とカイデン様特有の幸運によって、私は警告を得た。風で音を立てたにしては鎧のがたつきが大きい。案の定、私の肩の上から、鎧がヘルム越しに長剣を持ち上げていた。私の頭を切り落とそうとしているのだ。飛びすさった瞬間、ケリヴィクが背後から何かを叫ぶ。刃は私の頭を切り落とし損ねた。

頭に振り下ろされた攻撃を避けるのに必死だったため、ここに至って初めて、パートナー達が何をしているのかが見えた。刃はホールの両側から揺れ動き始めていた。そのうちの一つは非常に鋭く、外套の深緑色の繊維を数フィート、スライスしていた。揺れ動く鎌によって脱出手段が遮断されるのを見やり、ケリヴィクは二倍の力で石の出入り口を開けようと力を込めた。状況を吟味する時間はなかった。偶像の守護者はまだ、私の上手にいた。

鎧は前方にステップし、軍人のような精度で旋回し、再び私に剣を振り下ろした。私は長いこと、パスファインダーだったのだ。ああいった類いの動きをさせられるのは、魔法か霊魂だけだと知っている。そして、そのどちらであっても……、いかに素晴らしかろうが、私の刃でそれを傷つけることが出来る可能性はほぼないということも。だが、突進してくるプレート・メイルを止める方法は別にある。私は次の打撃を左にかわすと、自ら前へと飛び込んだ。
あなたには分かるだろうけど、そう、分かってる、本能とは真逆の行動だった。でも、勇敢だったでしょ。
私は顎をぶつけながら鎧の腰周りに飛びついて、そいつのバランスを崩した。防具は後ずさり、台座にぶつかってばらばらになった。私は地面に落ちながら受け身を取った。もちろん、像も落下して、私の顔のすぐ横に落ちた。すっかり忘れていたけど、手に持っていた剣が、古い石畳にぶつかって音を立てた。

身をかがめていて良かった。だって、もし大きな鎌があの瞬間を狙って私のいる方の廊下に揺れ初めていなかったら、酷いことになっていたから。ケリヴィクが、鎌が降りてきた、お前の剣の柄が引っかかってるぞって叫んだのが聞こえた。あの唸りを立てる像は、ちょうど手の届きそうなところにあった。ばらばらになった鎧の、鋼鉄のガントレットから遠くないところに。

誓ってもいい。刃が手首の部分に当たったときに、指が動いて鋼鉄の腕へと像を引き戻し、痛んだ金属が立てる耳障りな音と共にあの像を引きずったのだろう。もし、一瞬でも遅かったら、持って行かれるのは私の手だったかもしれない。

「金を見てる場合じゃないぞ、ネリアン!」

ケリヴィクが私に向かって叫んだ。

「戻れ!」

今や、私は完全に、あの特別に上等な黄金のことを考えて自分を見失おうとしていた。だけど、その瞬間。誓って言おう。刃が物凄く近付いているってことに、それでも私は、少しの驚愕を覚えた。きらめく鎌が鎧の指を粗い石畳の上を転がし、うごめいた鎧の指から火花が飛んだのを見て、畏れが浮かんだ。私を突き動かすものについてのケリヴィクの推定が間違っていたと証明しながら、私は偶像に背を向け、ケリヴィクとイルヴァーナがその先の暗闇に消え失せようとするその瞬間、石の戸口を突っ切ったのであった。

今回に限っては、運が良かった。私達は地図がある主人の部屋に偶然、入り込んだのだ。その部屋の、蜂の巣のような本棚には、分厚い埃の下に古い羊皮紙が積み重なっていた。そこには、見回してみるまでケリヴィクが必要だということすら知らなかったあらゆる種類の古い記録が入っていた。また、その山を守るように、私を死へと導こうとしていたあの黄金の像と同じものが確かに、そこにあった。男性の身長の2倍の高さがあったが、あの像が命を奪うという噂は大げさだったんじゃないだろうか? あまりに作業が遅々としていたので、ケリヴィクが自分のお目当てをつかみ取っている間、イルヴァーナと私はその像の気を逸らし続けようとしたのだった。

凄まじいそれは、非常に大きく、戸口を潜り抜けることはとても出来なかった。それだから、私達は、そいつが道を抜けてくる前にかなり有利なスタートを切ることが出来た。そいつが私達のところへたどり着く前に、私達は既にロープを下ろし始めていたのだ。そいつは要塞の扉を急いで登り、三歩あゆむと、階段から走り出して山腹を600フィートほど下りていった。慎重に下りていくのにかかった時間は、そいつの部品が動いていないことを確認するのに充分だった。重すぎて、全てを自分達と一緒には運ぶことが出来なかった。時にケリヴィクの信頼すべき背負い袋は満杯だったのだ。だが、私達はそいつの腕のうち一本をどうにか引きずってロッジへ戻った。なかなかに素晴らしい品だった。すぐにもっと黄金を手に入れるために私は戻ることになるだろう。……もちろん、別の冒険が私を呼ばない限りは。


作者について
Howard Andrew Jonesは邪悪で美しい女魔法使いと共に風に揺れる塔に済んでいる。彼女と、あるいは彼らの才能ある子ども達と過ごしているのでないとき、彼がラップトップの上に腰掛けて、光り輝く剣や運命めいた呪われた塔につて呟いているを見ることが出来るだろう。セント・マーティンズ社はこの2月に彼の最新の小説である「For the Killing of Kings」を出版する。その続編である「Upont the Flight of the Queen」は11月に出版される予定である。

Paizoは彼のPathfinderの小説である「Plague of Shadows」「Stalking the Beast」「Beyond the Pool of Stars」「Through the Gate in the Sea」を出版しており、セント・マーティンズ社が彼の絶賛された歴史ファンタジー小説を出版するのである。Howardは「Tales from the Magician’s Scull」を編集した。彼はカラテを知っており、古いポップコーンを食べながら三人称視点でこれを書いた。

Tales of Lost Omensについて
Web媒体の短編創作小説のシリーズであるThe Tales of Lost Omensは、Pathfinderの失われし予兆の時代Age of Lost Omensについてのわくわくするような一幕を提供する。PiazoのPathfinder Talesの小説や短い創作小説を含む、ゲームの関連商品で最も高名な著者達の何人かによって書かれたこのTales of Lost Omensシリーズは、Pathfinderの設定にあるキャラクター、神格、歴史、場所、組織を、ゲームマスターとプレイヤー達を同じように触発するような魅力的なストーリーで紹介してくれる。


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