Tales of Lost Omens:ネズミ取り

当然のことだが、痕跡は酒屋へと通じていた。

通りの向かい側の隠れた止まり木から監視し、ウルソールはその場所を観察した。アブサロム・パドル地区の、悪臭がする不気味な残骸であった。死んだ魚が入り口付近の、雨に降られたばかりの泥の中に横たわり、その腐った頭部が、最後の呼吸をしているかのように浮かんでいる。内部では、フレイリーフとペシの煙、こぼれたエール、風呂に入っていない人間、そしてパドル地区全般に広がる避けられない悪臭といったものが立ちこめていた。薄汚い灰色の布が汚れた窓を覆い、垂木に吊され、既に薄暗い酒場を影で出来た巣穴に変えていた。

『ゴーンヴァーのネズミ』は、ウルソールが最後にその痕跡をたどった時から、ずっと落ちぶれていた。いまだ弱い男で、ちょっとした悪徳に陥りやすいが、それ以上の贅沢をさせてくれる金も友もいない。

良いことだった。簡単に逮捕出来るだろう。

そこだ。ウルソールは泥だらけのダックボードの向こう側で男が道を選んだ時、『ネズミ』のボロボロの帽子が路地に揺れ動くのを目撃した。帽子は別物で、その羽毛もゆったりしていたが、ウルソールはすぐに獲物が足をひきずっているのに気付いた。『ネズミ』は最後に会った時に左足の半分を失っていたのだ。

堅固な鉄のヘルムの下で、ウルソールは素朴な微笑を浮かべた。それは、目と口の隅が僅かに柔らかくなるといったもので、常に浮かべている石のような表情に、これまでに彼が許した最も大きな変化だった。長い狩りだった。

「動く準備だ」
ウルソールは同僚の騎士達に伝えた。
地元の支部からの応援として、彼は3人の拷問のヘルナイト達を求めていた。拷問騎士団は一般的に、彼が好むような精巧さには欠けていたが、そのヘルナイト達は鎖騎士団と同じように、恐ろしく獰猛で腐敗を知らなかった。彼らならやれるだろう。

「逮捕の条件は?」
拷問の騎士の1人が尋ねた。

ウルソールは少し驚いた。彼は拷問のヘルナイトが気にするとは想像していなかったのである。
「『ゴーンヴァーのネズミ』は確保しなければならない。生きた状態が好ましいが、殺しても構わん。他の負傷者は最小限に。邪魔しない者は傷つけないように」

「邪魔した者は?」

「合法的な法執行機関の行動を妨害したことによって有罪になるだろう」
ウルソールは手を自由にしながらも逮捕状を提示出来るように、盾の全面に逮捕状を取り付けた。パドルの常連達が逮捕状の権威を尊重する可能性は低いが、可能性が低いことは可能性がないよりも良い。彼は必要も無く頭蓋骨を砕くことを好まないのである。
「質問はあるか?」

答は無かった。ウルソールは居酒屋の裏口と側面の出口を見張らせるために2人のヘルナイトを送った。彼らが位置につくとすぐに、ウルソールは3人目を正面扉に連れて行った。ヘルナイト達が近付いていくと、飛び散った泥で汚れた浮浪児や、うろついている酔っ払い達が、にわかに神経質で落ち着いた様子になって、居酒屋から逃げていった。

ウルソールは彼らを無視した。居酒屋の扉は既に開いていた。だが、彼は扉を蹴り飛ばし、雨ざらしにされた木の板を壁にぶつけて粉々にした。ヘルナイト到着の知らせである。

混雑した、ああ重名雰囲気の居酒屋の真ん中で、重装備のヘルナイトが大きな両手剣でテーブルを切り裂く。その間、3人の部下達が背後の常連達をおびやかしていた。

「ゴーンヴァーのダンリル!」
ウルソールは衝撃を受けて静まりかえった店内にへ叫びを放った。
「貴様は脱走、殺人、卑劣な汚職をしての違法売買で起訴されている。鎖の騎士団の司直に下るがよい」

「そうしようとは思わないね」
『ネズミ』がゆっくりと答を返した。彼の口調は勇敢さに満ちていたが、居酒屋の貧相な光源の下ですら、ウルソールには『ネズミ』の顎が強ばり、手が震えるのを見て取ることが出来た。逃げようとしていて、恐怖している。ほとんど恐怖だ。
「俺ァ、アンドーランの英雄だぞ、この俺ァな」

「俺達はここの自由民だ」
他の賭博師が怒り出した。彼はウルソールを敵意の込もった、酒に曇った眼差しで睨み付けた。
「自由民だ。怖がるもんか」

「教えてやれよ、ガンメル」
『ネズミ』は鼓舞すると、自分の椅子をさりげなく後ろに滑らせた。

ガンメルがウルソールに、つたない動きで拳を放った。ウルソールはよく引きつけたパンチでガンメルの拳を打ち付け、酔っ払いの顔に一撃を叩きつけた。ガンメルの鼻はその一撃で血まみれになったが、ウルソールはそこで手を止めた。この酔っ払いをここで殺すほどではない。

『ネズミ』は暗器を求めてテーブルの下へと手を伸ばしていた。ガンメルとその椅子を蹴り飛ばし、ウルソールはテーブルに剣を振り下ろした。テーブルの天板、その下にある、『ネズミ』が手に入れようとしていた棍棒、そして『ネズミ』の腕を強打する。

「貴様は嘘つきで、しかも臆病だな」
ヘルナイトは大声で告げた。その声は『ネズミ』の怒りに満ちた苦痛の声を引き裂いて響き渡った。
「貴様は私の上司と2人の同僚を殺し、奴隷の舟を盗み、そして最も若く最も無能な者以外の全員を売り払った。お前の偽りの英雄譚を流布するために解放した者どもだ。それから、貴様は、奴らの衣服と精神に不浄な文書と密かな腐敗をねじ込めるように、奴隷どもを「救済」し始め、奴らを知らぬ間にアンドーラン中に汚れた禁制品を運ぶ運び屋に仕立て上げたのだ。これが貴様の罪だ、ゴーンヴァーのダンリルよ」

ウルソールの読み上げのほとんどは聞き流されていた。むき出しの鋼を一目見た途端、居酒屋は混乱に陥った。常連達はマグと半分入った飲み残しの器をウルソールに、そしてウルソールを支援するために突入してきた拷問のヘルナイト達へと投げつけた。他の者達は叫び、野次を飛ばし、『ゴーンヴァーのネズミ』を守るよりも、間近にある権力の象徴に唾を吐きかけることに興味を示していた。法律はパドル地区では人気が無い。

拷問のヘルナイト達は乱闘を止めるために動いた。彼らは効率的で、系統的で、残忍だった。骨が折れた。生身の肉に鉄が打ち付けられる。挑発と野次が、パニックに満ちた鳴き声と血に濡れた口からの嘆きへと変わっていった。

ウルソールは彼らに目もくれなかった。彼はガンメルの恐怖の金切り声を無視しながら、ばらばらになったテーブルを越え、『ネズミ』の折れた腕を掴んだ。

「このッ、畜生がッ」
『ネズミ』が痛みでヒステリックに叫んだ。
「五年も前のことなのに、追って来やがったのかよ! 腕が折れたじゃねえか!」

「受け入れるんだな」
ウルソールは言った。ガントレットのついた手を彼は曲げた。その手のひらの中で骨が継ぎ合わされる。

『ネズミ』は目を白黒させながら揺れた。
「見逃してくれ。なあ、見逃してくれよ! 色んな事を教えてやる。全部教えてやる。手口も。秘密も。うめく者のカルトも。密輸人のことも。俺を雇った連中のことも。全部、お前のもんだ。頼む!」

ウルソールは細かく、握りしめた手をほぐした。彼らの背後で、乱闘は終わっていた。今は怪我人のうめきとうなりだけが聞こえる。拷問のヘルナイト達は倒れた者の間を移動して、まだ倒れていない者を更に殴っている。

「頼むよ」
『ネズミ』がすすり泣いた。

「私は鎖のヘルナイトだ」
ウルソールは告げた。立ち上がり、折れた腕をつかんで『ネズミ』を足下に引きずっていく。
「貴様を逮捕するのが私の務めだった。だが、貴様の言葉が真実なら、貴様を守るのは私の役目ではない。邪悪なカルトは我が騎士団の領分ではない」

どうにかして、『ネズミ』は喉にせり上がってきた痛みの金切り声を呑み込んだ。痛みにも関わらず、その目には希望が燃えていた。
「じゃあ、俺達、取引をしたんだよな? 自由にしてくれるのか?」

「いいや」
ウルソールは言った。
「貴様を火葬騎士団に引き渡すことになる」

それから彼は微笑んだ。心からの微笑みだった。一方、『ゴーンヴァーのネズミ』は絶叫した。

About the Author

Liane Merciel is the author of the Pathfinder Tales novels Nightglass, Nightblade,and Hellknight, and a contributor to other books including Nidal: Land of Shadows,Faiths of Golarion, and the Lost Omens World Guide. She has also written for Dungeons & Dragons, Warhammer: Age of Sigmar, and Bioware’s Dragon Age franchise.She lives in Philadelphia with her husband, two dogs, and an adventure toddler who is extremely into Spider-Man.

About Tales of Lost Omens

The Tales of Lost Omens series of web-based flash fiction provides an exciting glimpse into Pathfinder’s Age of Lost Omens setting. Written by some of the most celebrated authors in tie-in gaming fiction, including Paizo’s Pathfinder Tales line of novels and short fiction, the Tales of Lost Omens series promises to explore the characters, deities, history, locations, and organizations of the Pathfinder setting with engaging stories to inspire Game Masters and players alike.


このページはPaizoのコミュニティ・ユース・ポリシーに基づいて、Paizo Incの商標あるいはコピーライトを用いています。
このコンテンツの使用あるいはアクセスについて料金を頂くことは禁じられています。
このページはPaizo Inc.の出版物ではありませんし、保証を受けているものではありませんし、特に認可を受けたものもでもありません。
Piazoのコミュニティ・ユース・ポリシーについての更なる詳細については、paizo.com/communityuseを参照して下さい。
Paizo.IncとPaizo製品の更なる詳細については、paizo.comを訪問して下さい。

paizo.com

“This page uses trademarks and/or copyrights owned by Paizo Inc., which are used under Paizo’s Community Use Policy. We are expressly prohibited from charging you to use or access this content. This [website, character sheet, or whatever it is] is not published, endorsed, or specifically approved by Paizo Inc. For more information about Paizo’s Community Use Policy, please visit paizo.com/communityuse. For more information about Paizo Inc. and Paizo products, please visit paizo.com.”

元ブログ

コメント

タイトルとURLをコピーしました