Tales of Lost Omens:世界は広がる

ハジダーは残り2人の学生達の間に、体を強ばらせて立っていた。かたや退廃したリザードフォーク、もうひとかたは残忍なエクジャエ・エルフであった。その時、彼らの虚弱な教師であるマウニョが、スタッフでジェスチャーをした。あたりには、蔓に覆われた尖塔、優雅なアーチ、広大な塔といったものがある。ここは魔法学院、マガンビア。世界一ではないにせよ、大ムワンギで最も偉大なアカデミーである。

「諸君は今、研究と奉仕の人生へと船出するところである」
マウニョの声は、そのほっそりとした体格とは裏腹に豊かで朗々としており、ハジダーに故郷の『不死の御子』の司祭の力強い声を思いださせた。
「我々は諸君の内に、大いなる約束された未来、即ち情熱と意志、精神と知性、力と判断力……そして、世話をすれば芽生えて花咲かせるであろう知恵の種を見いだしたがゆえに、諸君を選んだのだ」
教師の助手であるクウェクがくすくすと笑った。ハジダーは彼女を一瞥するという危険を犯した。彼女は明らかに数年間、マウニョと共にいて、世界の果てまで旅をしたらしい(そして噂によれば、その先にすら)。彼女のローブの裾には泥が飛び散っていて、髪の毛を何本もの三つ編みに結っている。そして、彼女に出会って1時間もすれば、ハジダーは半ば彼女に恋をしていた。都合の悪いことに。

幾つかのテラスがある複数の建物が午後の日差しに照らされていた。日光は左の上手から降り注いでいた。建物は緑豊かな木々に囲まれており、建物とテラスの側面には植物が茂っている。右手には、ある建物の正面のテラスがきっちりと手入れされており、そこには小さなローブをまとった一団が集っていた。一人が先端から赤い輝きを放つスタッフを空へ掲げており、その他の者達がそれを見上げている。外套をまとったフードの人物がテラスへと続く階段から、それをじっと見ていた。

マウニョが続けた。
「諸君らは様々な場所から来ているが、全員が大ムワンギの子である。私もそうだ。我々は、大いなる魔法には大いなる責任が伴うことを教えたもうた古き魔術士ジャテンベの継承者にして後継者である。我々はより良き世界のために知識を使わねばならぬ。私は諸君らのような若人に教えることを通じてこれを実践している」

「そして、デーモンを杖で打ち負かして殺すことによってね」
とクウェクが言った。

マウニョは骨張った肩をすくめた。
「外国にいる時にはな。必要があれば、だ。そして専用の杖で」
彼はスタッフを叩いた。ハジダーはこれまでそれを特に脅威だとは思っていなかったが、今は恐ろしかった。
「我々はにこういった武器は必要ない。歌う風の街ナンタンブは私がこれまで住んだ中で最も安全な場所なのだ」

「あまりにも安全すぎて、時々、危険のスリルを感じるために旅行するくらい」
とクウェクが言う。

マウニョは気付かなかったようだった。
「この都市を傷つけるものはすぐに、数百人もの魔術士が故郷と呼ぶ場所を攻撃する愚かさを学ぶことになるだろう。そのような教えが必要な侵入者は最近はおらぬがね。この安全によって、我々は平和に学ぶ自由を得ているのだ。私は、諸君の才能を世界に役立てる最善の方法を見いだす手助けをするため、ここにいるのである」
彼は杖の方へ体を傾け、順番にそれぞれの生徒を凝視した。この指導者の眼差しは、ハジダーの魂を貫くかに思えた。ハジダーはそうではないことを祈った。

老人が口を開いた。
「教えて欲しいのだ。諸君らは夢見た力を手に入れたなら、どのような目標を達成したいのかね?」

リザードフォークがゆっくりと話し始めたが、その言葉の多くはハジダーの知らないものだった。要点としては、リザードフォークの女性の将来を改善することのようだった。恐らく、本人も女性なのか? ハジダーには見分ける方法が分からなかった。こういったクリーチャーは故郷ムザリでは一般的ではなかったのだ。それから、エルフが口を開き。秘術とドルイドの技術を組み合わせることによって、複合した魔法をそれぞれだけよりも強く、もっと柔軟にするということについて、抽象的なことを語った。マウニョとクウェクはこれらの発現の間、思慮深げに頷いていた。そして、彼らはハジダーに視線を向けた。

ハジダーは背筋を正して言った。
「俺は『不死の御子』の故郷ムザリ出身です。『不死の御子』はみんなを炎と恐怖で支配しているんです。あなたはムザリをご存知ですか?」

「行ったことがある」
とマウニョが言った。
「色あせた栄光の街だった頃。あの子どものミイラ、ウォルキーナが目覚めて支配する前にな。それからは行ったことがないが」

「街の人は……出て行かないように、勧められてます」
ハジダーは言った。
「ウォルキーナは服従と生け贄を求めます。お気に入り以外には、彼の支配は残酷なのです。ウォルキーナの支配を覆し、生きた者に街の支配権を取り戻そうとしている、輝きの獅子というグループがあるんですが。獅子は俺が秘術の技術に興味があることに気付いて、ここに来る手助けをしようと言ってくれました。あの人達は、純粋に親切心からやってくれたんです……でも、俺はその親切に報いたい。それで、俺が得た力を、あの人達の大義のために使いたいんです。もし何もしないまま放置したら、ウォルキーナは燃える御旗の下に大ムワンギ全体を統一するという目的を達成するでしょう。ウォルキーナは、この場所を焼き払ったりもするかもしれない。俺はそれを防ぎたいんです」

マウニョとクウェクは、他の生徒達の野心的な宣言にそうしたように、それに頷いた。心の奥底からハジダーは気を緩めた。

「午後は居住区に慣れるように」
とムウェノが言った。
「それから、少なくともアカデミーの直近の場所にもだ。諸君らの目標と資産について知ったことを熟考し、明日には研究の第一歩について議論するためにもう一度、会合を行うこととする」
彼は背を向けて歩いて行った。ハジダーが見るに、歩く補助ではなく、杖を小道具として使っているようだった。恐らく、見た目ほど虚弱ではないのだろう。

グループは解散した。ハジダーは、日々の出来事を記録するプライベートな場所がどこにあるのか疑問に重いながら、寮へと向かった。クウェクが彼の側に歩み寄った。
「ムザリね」
と彼女は言った。
「まだそこに、家族がいるの?」

「私は……実は、その、今はもう」
一瞬、炎、灰、石のしみといったものが過ぎったが、彼はその映像を追いやった。行動には結果が伴う。両親や兄弟よりも賢い選択をするのだ。
「ある意味では、ムザリにいる人達全員が俺の家族です。彼らには自由の権利がある」
それは、輝きの獅子の友人達が言っただろうことに似ていた。

「お悔やみ申し上げるわ」
彼女は話をしながら、彼に顔を向けるためにくるりと回って、後ろ向きに歩き、難なくそのままで階段を上っていった。
「ここはかなり違うはずだわ。建築様式が違うだけじゃなくて、色々な種類の人達、大気の音楽、恐怖の雰囲気が蔓延していないこと……」

「それが……一番、爽快な変化ですね」

クウェクは頷き、広いが、人の居ない広場を通って彼の先を行く。
「言いたかったのはね。『不死の御子』ウォルキーナの問題を研究している、小さいけど献身的なグループがここにいるの。何人かを知っているわ。その中にはね、あのテンペスト=サン・メイジだっている。紹介して欲しい?」

ハジダーは逡巡した。彼は自分を募集した司祭が主張したように、小さき神ウォルキーナ自身が直接、自分を個々に送り込むように命令したのか、自分がその司祭のお気に入りの計画の一部なのかを知らなかったのだ。だがどちらにせよ、彼の任務は単純で、かつ、達成困難なほど複雑だった:このアカデミーの弱点を発見し、『不死の御子』がその計画に対抗出来るように、ここの魔術士達がムザリからの侵略にどのように対処するかを見いだすこと。ウォルキーナの脅威に特に取り組んでいるグループの一員となることは、そのような情報を収集するには完璧だが、強い念視にさらされるかもしれず、任務がゆっくりとした、用心深い、数年がかりのものになることを意味していた。
「そういったグループのために何が出来るか、分かりません」

「あら、私も分からないわ」
クウェクは笑った。
「『不死の御子』の司祭達に信頼されている二重スパイを持っておくのは、私達にはとても有利かもしれない」

ハジダーは凍り付いた。手をローブの内側に忍ばせたが、クウェクは鼻を鳴らした。
「どうせ負けることになるけど、やる前に上を見て」

彼はすぐに視線を上に向けた。頭上の空中に、眩しい金属に太陽が反射しているような何かがあった。噂によれば、テンペスト=サン・メイジは接近する脅威を監視するため、学院の空高くを飛んでいて……ハジダよりも、もっと危険な敵すら殺すことが出来るという。彼は手を下ろし、クウェクを見つめた。
「混乱した振りをするべきか?」

「多くのスパイがそうするでしょうけど、この方が時間の節約になるわね。私達はあなたが最初に申し込んだ時から、あなたのことを知っていたの。呪文はあなたの嘘を上手に隠していたけど、あなたの話によく掘り下げたら、手がかりとして紐解ける綻びが幾つかあったわ」
彼女はハジダーに歩み寄った。ハジダーは攻撃されると思って緊張したが、代わりに彼女はハジダーの腕に自分の腕を巻き付けた。
「私と来て」

「処刑しに連れて行くのか? それとも、心を壊して下僕にする?」

「『不死の御子』の下で生きるのは、あなたのためにならないわ、ハジダー。至る所に敵がいる。私はあなたの敵じゃないの。私はあなたの先生だもの。私があなたに教えようとしているのは、あなたが間違った場所にいるということ」

ハジダーは首を振った。忠誠だけがあらゆる寺院の基礎、あらゆる歩みを支える地面だ。ウォルキーナに反する者は、怒れる七つの太陽の罰を受けることになる。彼を募集した司祭は、ハジダーの信仰が揺らいだとしても、彼の忠誠を確保するための手段を用意していた。
「たとえあんたの嘘に心動かされたとしたって、俺の忠誠心は意志を遙かに超えた力で強要されている」

「ええ、そうね、知っているわ」
とクウェクは言った。
「あなたの束縛には、条件がある。何らかの進展をさせるには、それを取り除く必要があるでしょうね」
クウェクがハジダーの腕を軽く叩いた。ハジダーは、最後にこんなに親しいやり方で触れられたのはいつだったか思い出そうとした。
「私達が世界でまたとない偉大な魔法の学院にいて、魔法の専門家に囲まれているのって、素敵なことよね?」

彼女に触れられて、ハジダーの心は揺れた。故郷で彼女のような女性に出会ったことは一度もなかった。彼女は知的で、強く、それでいて淫らで、衝動的で、率直だった。何もかも、憎むべきものだった。外の世界によって堕落させられ、弱められ、故郷にその毒を持ち帰ろうとする大ムワンギの原住民だ。それは毒だった。彼は協力する振りをして、彼らに対抗するために使う情報を集める一方で自分達が彼を勝ち取ったと思わせておくことが出来る。三重スパイというのもありなのか?

彼女は緩んだ石につまずき、立っているためにハジダーの腕に手をあてた……それから、歩いて行く時に手を下げた。

「あんたは……俺と親しく協力しようってのか?」
ハジダーは腕に巻き付けられた彼女の指をじっと見つめた。

「それが提案よ。私があなたの指令役になるのよ、ハズ。私達で凄いことをしましょう」

ハズ。ハジダーの心は再び震えた。そして彼は思った。彼女が自分を堕落させたら? 今、まだ純潔でいる内に反撃して死んだ方がいいのか? それとも、自分が忠誠を誓ったのは主人の力という炎であって、自分の中の炎ではないのか? 間違っているのか?

彼女は黒い塔のふもとにあるアーチへと導くためにハジダーから離れた。そして、彼女が背を向けると、ハジダーは手を伸ばした。

その瞬間。自分が首を絞めようとしているのか、抱きしめようとしているのか、ハジダーには分からなかった。

Tim Pratt
Contributing Author


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