Tales of Lost Omens:前兆

ごめんなさいね、その絵は売り物じゃないのよ。この特別な絵は、自分のためにとってあるの。

どうしてかって? そうね……雨の日の午後の過ごし方としては、あなたみたいなお友達とお話をするのはとてもいいことでしょうから、もし、聞いてくれる時間があるのなら、クルックコーヴやザーウィン、そしてあの絵に描かれた家のことをお話しましょう。

あの場所に興味を持ったのには、私なりの理由があったの。あそこよ、わかるかしら。あの荘園の一番上。ドームね。ロタンダというの。天文台。あの荘園の天文台を寺院に改装して、誰もがコズミック・キャラバンの不可思議を観察することができるようにしたいって夢みたことがあるのよ。荘園そのものは、ラヴォネルの南西の僻地にあるんだけどね、所有権がちょっとややこしいことになってて……ラヴォネルがシェリアクスから独立したことが原因なんだけど。誰が正当な所有者なのか、誰も分からないみたいね。大昔の話……シェリアックスの領土だったころに遡る話だし、シェリアックスの歴史改ざんの慣行は、あの建物の運命を決める法的書類をたくさん作ったわけ。

クルックコーヴが人里離れた場所にあったこと、政府が独立を維持するためにもっと大事なことで手一杯だったこと、一番近い、文化的な場所まで何マイルも離れていたことも、助けにはならなかった。

ああ。そうそう。あそこが幽霊の出る場所だったってことも、意味はなかったわね。

ちょっと話が急だったかしら。

この町はね、最初からクルックコーヴと呼ばれていたわけではないの。ヘルナイト(正確に言えば、門の騎士団ね)は4599年に、シタデル・エンフェラックの初期建造のための中継地としてこの町を設立したのよ。入り江の形にちなんで、「ゆがんだ入り江のクルックド・コーヴ」と呼ばれていたのね。ヘルナイトって、独創力がないの。いずれにせよ、エンフェラックの建設は本題じゃないわね。

ヘルナイトたちは設立後、数年でクルックド・コーヴからいなくなった。それから数十年後、この町は自力で発展していったってこと。地元の人たちはヘルナイト達が始めた採掘や伐採を続けてそれなりの生活をしていたけど、クルックド・コーヴが再び外部の注目を集めたのは、スルーンの者達が国を支配するようになってからのことだった。

シェリアクス内戦の終了から数日後、スルーン家が国中の権限ある立場に手下を割り当てるようになった。ほとんどの人間はラヴォネルを僻地だと思っていたけど、ある下級の貴族、イオセフ・ザーウィンはそう思っていなかった。彼がどうやって準子爵の称号を得たのかはよくわかってないけど、記録に残っているところによれば(どうにか判読可能な、改ざんされていない数少ない記録の中で)彼はクルックド・コーヴを権力の椅子として与えられたということらしいの。

クルックド・コーヴはほとんど戦争に関わりはなく、私の研究によれば、地元の人たちは最初、この新しい準子爵と彼が町のちょうどすぐ側の断崖に建設し始めた豪華な邸宅を警戒していたのだけど、すぎにその意見は変わったのだそう。クルックド・コーヴの人達はすぐに、準子爵のもたらす保護と支援を評価するようになったの。特に、イオセフが町の人達に伝統と独立をほとんど維持してよいとしてからは。彼はアスモデウス教会、酒場、造船所を兼ねた、町役場を中心とした一組の桟橋、町の貿易を支える精錬所といった建物の建設を見届けたの。そして十年の間に、クルックド・コーヴはささやかな成功を収めた鉱山の町へと成長を遂げたわけ。町の北側にある丘陵で採れる鉄や鉛に銅が流れ続ける限り、イオセフ・ザーウィンは町の人々に思い通りにさせていたわ。その代わりに、税金と輸出品がシェリアックスの中心地へ流れていく限り、ザーウィンのプライバシーも保証されていたの。

こうやってプライバシーが保証されていた結果として、詳しいことを追跡するのは難しいんだけれど、ザーウィンは漫然として家を建てる場所を選んだわけではないんだと思う。惜しいことに写しを取ることは出来なかった、断片的な手紙があるんだけれど(数ヶ月前の火事で失われた無数の書類の中の一枚になってしまった)、ザーウィンその人がほのめかしているのよ。「特に感動的な夜空を眺められるこの場所を選ぶことが出来たのは、夢のおかげだ」ってね。彼は手紙の中で、「天文台の建造は期待以上に進んでいる」とも書いていた。

さらに調べてみると、イオセフには家族がいることが分かったーー妻と双子の子ども達よ。妻のアセタンナは、著名な彫刻家にして画家で、一家はクルックド・コーヴで最初の何年かを平和に過ごしていた。だけど、それは長くは続かなかった。何かが、十年と半年後に起こったの。また詳しいことを追うのは難しくなってしまうんだけど、どうにか繋ぎ合わせることが出来たところによれば、結婚生活は内部から崩壊したみたい。イオセフは天体観測にますます夢中になっていって、アセタンナの作品は暗くて不吉なテーマになっていった。

そして、4657年に全てが唐突に終わった。ある夜、アセタンナが双子を連れて荘園を逃げ出したの。そして、ザーウィンはますます敵対的になり、狂気に陥っていった。彼は誰にも荘園い訪れることを許さず、家令達に荘園から出ることを禁じたのですってーー少なくとも、荘園から逃亡したと言っている従僕によれば。この名前のない従僕は、明らかに地域の役所に助けを求めていたんだけれど、役所は訴えに耳を貸す余裕がなかったみたい。天気が悪くて、嵐と洪水が町を破壊したの。そして、悪天候だけではなかった。人々もまた、凶暴になっていった。睡眠中に悪夢が町の人達を襲い、悪夢から覚めると人々は残虐で無慈悲な行為や自殺に駆り立てられた。まもなくして、町の人達は杭を打ってこの場所を捨てたのよ。町の看板が壊れたのは嵐のせいだと言う人もいれば、最後に逃げた市民が壊したんだと言う人もいる。だけど、今では、この場所にやってくるごく少数の人達は「クルックコーヴ」にようこそって看板に迎えられているわね。

残念だけど、それで終わり。ここ数年、この場所に泊まったごくごく何人かの人達の悪夢や、ザーウィン邸に果敢にも入った後に完全に消えてしまった人達がいるっていう、作り話みたいな物語以外には、この場所について知っていることは、ほとんどないの。ザーウィン邸を相続する人は明らかにいなかったし、ラヴォネルがシェリアックスから独立して、建物は政府が保管している。その法的な状況をはっきりさせるために必要な手段が全て取られるまでね。この荘園そのものは、この地域でまだ残っている唯一の建造物で、丘の下にかつて賑やかな鉱山の町があったことを伺わせる空洞があるだけ。

それで、あの絵の話に戻るのだけど。

ともかく、あの絵を手にした数週間後から、クルックコーヴとザーウィン邸を夢に見るようになったの。私は夢を信じることにしているーー何を予言するのか、いつも正確ってわけじゃないけど、注意を払うだけの価値はあるし、この夢には特に私を惹きつけるものがあるの。ザーウィン自身が最初にこの土地に家を建てるきっかけになった、惹きつけられるあの夢と同じ原因があるのかもしれない。荘園そのものが、何か、力ある場所なんじゃないかって気がすること以外に言えることはないけど。大事な場所なのよ。修復して、見守っておくべき場所なの。それ以来、私、お金を貯めてきたの。それで、いつか、ラヴォネルまで行って、自分で荘園の所有権を確保して修復したいと思ってるの。コズミック・キャラバンの社に改築するために。そこで何が起こったのかを知るために。

今なら、この絵に描かれているのが何か、分かるんじゃないかしら。そう。これは廃墟になってしまったザーウィン邸。私は幸いなことに、クルックコーヴの廃墟を訪れた人に少なくとも4人、聞き込みをしたわ。誰一人として荘園に足を踏み入れたことはなかったけど、この絵が今の荘園の陰鬱さと威圧感を正確に表現しているという点では一致している。

この絵で気になるのは、画面の端で見張っているように見える鳥たちの陰鬱な姿勢でも、中央のドームの向こうから立ち上る不気味な光でも、庭の枯れた木の捻れた枝でも、二階の窓の不思議な光ですらない。

一番気になったのはね、絵の裏にあるサインと日付。アセタンナ・ザーウィンのサインと、アブサロム歴4653年の日付。これは、ザーウィン邸に何らかの運命がやってきて、忘れられた町の廃墟に荘園が放置される4年前のことよ。

-オタリの「Wrin’s Wonders」のオーナー、レン・シビンシ


著者について
James Jacobsはパスファインダーのクリエイティブ・ディレクターである。彼はゴラリオンの想像の始まりに立ち会ったが、この世界の英雄と悪党によって信仰されている神格の多くは既に何十年も前から存在していた。デズナやロヴァガグ、サーレンレイにアーバダー、アチャケクとゾン=クーソンのような神々は80年代後半と90年代初期のJamesのホーム・キャンペーンでPC達やNPC達の間で最初に信仰されていた。それらをパスファインダー世界の神格として共有し、プレイヤーやクリエイター達がその神々を好きになったり、嫌いになったり(あるいは神々のコスプレをしたり)したことが、経歴のハイライトである。

Tales of Lost Omensについて

Tales of Lost Omensについて
Web媒体の短編創作小説のシリーズであるThe Tales of Lost Omensは、Pathfinderの失われし予兆の時代Age of Lost Omensについてのわくわくするような一幕を提供する。PiazoのPathfinder Talesの小説や短い創作小説を含む、ゲームの関連商品で最も高名な著者達の何人かによって書かれたこのTales of Lost Omensシリーズは、Pathfinderの設定にあるキャラクター、神格、歴史、場所、組織を、ゲームマスターとプレイヤー達を同じように触発するような魅力的なストーリーで紹介してくれる。


このページはPaizoのコミュニティ・ユース・ポリシーに基づいて、Paizo Incの商標あるいはコピーライトを用いています。
このコンテンツの使用あるいはアクセスについて料金を頂くことは禁じられています。
このページはPaizo Inc.の出版物ではありませんし、保証を受けているものではありませんし、特に認可を受けたものもでもありません。
Piazoのコミュニティ・ユース・ポリシーについての更なる詳細については、paizo.com/communityuseを参照して下さい。
Paizo.IncとPaizo製品の更なる詳細については、paizo.comを訪問して下さい。
paizo.com

“This page uses trademarks and/or copyrights owned by Paizo Inc., which are used under Paizo’s Community Use Policy. We are expressly prohibited from charging you to use or access this content. This [website, character sheet, or whatever it is] is not published, endorsed, or specifically approved by Paizo Inc. For more information about Paizo’s Community Use Policy, please visit paizo.com/communityuse. For more information about Paizo Inc. and Paizo products, please visit paizo.com.”

元ブログ

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました