Tales of Lost Omens:天を離れし氏族

「お許しを……」

セリクはボレットとその他の弓使い一行を背にして、身をかがめた。

「愚かな十字軍め。そもそも彼は何故、ここにいるのだ? 我々は彼を必要としていない。我らが神がお戻りになり、氏族の残りの者と我々を合流させてくださった」

ボレットがぶつぶつと呟いた。

「ドロク・ダークファーは疑いようもなく強力だ。彼の指導力がなかったなら、我らはまだ森の中に隠れていただろう。そうだとしても……ラムノスは我々を全員集めたよりも、もっと実践的なデーモンとの戦闘経験がある。あの砦を襲撃する時、味方に彼がいれば、君の役に立つだろう」
彼らの神――がっしりとした熊のようなクリーチャーだが、その輝く羽根と知的な瞳は、疑いようもなく、普通の動物が持ち得ぬものである――がこの集団を率いており、その両側を、十字軍の男と、この氏族の神の呼び手であるネルケトが挟んでいた。十字軍を見ると苛立たしさが湧き上がる。セリクは唾を吐いた。

「ワールドウーンドが閉じた時、他の十字軍どもはサルコリスを去っていったではないか。俺は彼を信用しない。何故、彼はまだここにいるのだ? 残りの仲間と共に、楽な南の大地へと馬で戻るべきではないか?」
ボレットが鼻を鳴らした。

「十字軍達は囁きの大帝が暗躍を始めたので南に戻ったに過ぎない。それほど楽なものではないぞ」
「だが何故――」
「スタグの母の角にかけて。その理由を聞きたいのなら、自ら問いに行くがよい! 十字軍は私には理由を打ち明けようとはしなかったのだ」
セリクは集団の先頭を睨みつけた。その目は、十字軍の男がセリクのところまで来て立ち止まり、その横へと膝をついた時、大きく見開かれた。

「あなたの質問が耳に入ったので」

彼の発音は身の毛のよだつようなものだった。
「私がここに残ったのは、アビスの穢れをあなた方のご先祖の土地から浄化するという誓いを立てたからです。この土地にデーモンがいなくなって、仕事が終わったと思う者もいる。だが私はそうではない」
彼は一拍、間を取った。

「それに、私はデーモンを殺すのが得意なのですよ」

「自慢屋め」
ラムノスは笑った。それは、セリクを心底、苛立たせるものだった。

「私にしてみれば、これは、はっきりとした自負なのです。あなたの怒りはわかりますよ、セリク。私はあなたを非難しません。あなたの一族は誰よりも苦しめられている。しかし、どうか私に怒りをぶつけないで下さい。全ての部外者が侵略者だというわけではありません。私はあなたの一族に愛着があるのです」
「叔母上のことだな」
「どうか、手始めにあなたの叔母上からと言わせて欲しい」
ラムノスは同意した。

「貴様は決して、ファーヘヴン氏族の一員になることはないぞ」とセリクは口ごもった。彼の一族の残りは非常に少数となっていたが、セリクは部外者が自分たちと旅をし、あるいは、神々が禁じているように婚姻によって仲間になるという考えには憤激していた。
「恐らくそうはならないでしょう。ですが」
「私達はここにいるのです」神の呼び手が言った。彼女の声は、どこか、セリクの耳に囁きかけるようなものだった。

彼はラムノスから離れて歩み出て、厳格だが広大なカールホン砦を見下ろす、小高い山にいる他のものに合流した。カールホン砦はかつて皆の故郷であったが、今やデーモンの砦となっていて、その塔と壁の上には不自然な黒い雲が渦を巻いていた。
セリクは氏族の者達と共に森や原野で育ち、ほとんど、木や石の屋根の下で過ごしたことはなかった。カールホン砦は想像よりもずっと広大であった。もしデーモンの影響を取り去れば、彼の氏族は本当にそこに住んでいたのだろうか?

「壁が光っている」とセリクは囁いた。
「デーモンのルーンです」

ラムノスがため息をついた。
「壁は完全に破壊する必要があるかもしれません。あの穢れは石の中にしみこんでいます。ですが、稲光の方が心配だ」
不健全な緑の閃光が黒い雲のを照らしている。
ドロク・ダークファーが後ろ足で立ち上がった。セリクは自分の中に畏怖の衝動があることを否定出来なかった。
神が先頭に立つというのに、どうやって失敗するというのか?

「稲光など恐れぬ」とダークファーが発言した。彼の声は轟くようで、強靭差を感じさせた。

「残りの者は恐れることになるでしょう」
ラムノスはその剣で、暗雲と緑の稲光の間を動きまわる、小さな点を示した。

「あれは憤怒のデーモンです。下劣な生き物め。奴らは踊るのですよ――」
「踊るのか?」
セリクは嘲笑した。彼はからかって、小さくピルエットをした。

「彼らの踊りは破滅をもたらすのです」とラムノスは言った。
「目撃する者はほとんど生き残ることがありません。デーモンどもの踊りは楽しみのためのものではない。あれは敵に凶事を呼ぶための儀式なのです。あの稲光は……悪魔どもが我々の到来を知っていて、我々に死をもたらすために踊っているのではないかと思います」
「足を噛みちぎってやれば、踊ることも出来まいよ」とダークファーが唸った。そして前足を地につけて砦の方へと前へ駆けた。ネルケトと氏族の戦士達は剣とハンマーを抜き、急いで彼についていった。
ラムノスは彼らが走るのを眺めていた。
「前もって計画を議論できたのは良いことでした。弓を用意して下さい、セリク」
「何だと?」

十字軍の男は再び、指し示した。

大気の中にある点は大きくなっていき、幾つかの点が彼らへ向かって襲撃してきた。セリクは息を呑んで、不器用ながらも弓をつがえ、祝福された矢を放とうとした。
彼は氏族で最も腕の立つ弓使いの1人であった。飛行中の鳥を撃ち落とすことも出来た。しかし、彼らの方へとやってくるものは鳥ではなかった――それは人間とハゲタカの入り混じったグロテスクないきもので、羽根と埃をたなびかせていた。

「あまり近寄らせないほうがいい」とラムノスは言った。
「奴らは毒の霧を撒き散らすのですよ」

セリクは息を吸い、よく狙いをつけ、そして矢を放った。
矢はダークファーへと急降下するデーモンの右の翼を正確に射抜いた。デーモンは、左の翼を地面にこすりながら、くるくると回り、翼を広げながら落ちていった。神は少しの間、そのデーモンにとどめを加えるために立ち止まり、そして駆けていった。

「やったぞ!」

セリクはうめいた。
他のデーモン達はボレットやその他の弓使い達が放った聖なる矢によって落ちていき、空中にいたデーモンの残りは砦へと退却していった。
「奴らはあなた方の神を狙っていましたが、あなた方を脅威だとは思っていなかったのですよ」とラムノスが言った。
「今は、奴らはあなた方を脅威だと思っています。行きましょう!」

彼は前方へと駆けていった。セリクも従った。狩猟のスリルのようでいて、もっと激しい何かで血が沸き立っていた。
弓使い達は壁へと弓が届く距離で立ち止まり、胸壁の上のねじれた人影へ向かって矢を放ち、先導する戦士達を守っていた。
セリクを苛立たせたのは、十字軍の男が側にとどまって、まるで観測手のように振る舞い、標的を呼ばわることだった。彼はどのデーモンが将校相当なのかを知っているかのようであった。そして、セリクがそういったデーモンを何人か殺すと、位の低い悪魔どもは恐れて逃亡した。
ダークファーは砦の門へとたどりつき、唸りを上げて障壁を叩きつけるために門を登っていた。
壁のルーンが燃え上がって、明るく光を放った。
戦士達が神に合流し、武器で門を壊そうとしたのだが、神そのものが攻城兵器のように、ダークウッドをばらばらに破壊し始めた。

「どうぞ」

十字軍の男がセリクにナイフを渡した。小さな剣と言ってもいいほどに大きなものだった。その刃はこのような曇天の下にあっては不自然なほどに、きらきらと光を反射していた。
「中では、あなたの弓はそれほど有用ではないでしょう」
セリクは手を伸ばし、顔をしかめ、少し間を置いてからその武器をひったくった。
その武器の中では力が躍動しており、彼の手によく馴染んだ。
「何故、貴様はこれを俺に渡す? 何故、そんなに俺の近くについてくる?」
「それは……その……あなたの叔母上に、あなたを守ると申しましたので」
ラムノスは言った。
「叔母上と他の戦士達が神の近くで戦っている間は、です」

セリクは足を踏み鳴らした。

「俺は子守をされるような年ではないぞ!」
ラムノスがまた、腹立たしいことにくすくすと笑った。
「それは良かった。私は子守が下手なのですよ。ですが、私は有能な戦士です。あなたの隣に立つのは名誉なことですよ」
「貴様の助けなど要らぬ」とセリクは言った。
「私は自分で自分の栄光を勝ち取る!」
「そうでしょうね。ですが、彼女は私に誓いを立てさせたのです」
彼は肩をすくめた。
「誓いを破ることは出来ませんから」
「俺は、そうでも――」

突然、十字軍の男が叫んでセリクを横に突き飛ばした。ハゲタカのようなデーモンが胸壁から降下攻撃を仕掛けてきたのだ。

十字軍の男とデーモンは手足と四肢を、爪と刃をひとかたまりにしてもんどりうった。セリクは凍りついた。
遠くの敵に矢を射掛けるのは良かった。だが、今はデーモンはここに、足下にいる。デーモンは悪臭を放ち、悶ていて、下劣で、そして恐ろしい。彼は長い間、動くことが出来なかった。そして、助けを求めて周囲を見渡したが、氏族の残りの者達は門の割れ目に姿を消していた。
セリクは自分を奮い立たせ、新しい刃を持ち上げて時機を待った。
間違ってラムノスを攻撃することがないと確信を得た瞬間、彼は刃をデーモンの鳥のような頭の後ろに突き刺した。
デーモンは絶叫した。その傷口は煙を放っていた。そしてラムノスが下から這い出てきて、やっとのことで立ち上がった。
十字軍の男は剣を怪物の背に突き刺して、デーモンの金切り声を終わらせた。
彼は頭からカビの生えた羽毛を取り払うと、頬に出来た長い傷をこすって、微笑んだ。

「どうですか? あなたが私の子守だ」

セリクはうなずいた。
「そうだな。私がいて……良かったな」
「自分自身では身を護ることが出来なかったでしょう。これが、最初に私が騎士団に入った理由なのです」
ラムノスは割れた門に向かって頷いてみせた。
「デーモンどもに踊り方を教えませんか?」
「踊りは軟弱だ」とセリクはぼそぼそと呟いたが、稲光が雲からそこら中に放たれる中、彼はラムノスに続いて砦に入った。
十字軍の男は笑い声で答えたが。今回はそれほど彼を苛立たせることはなかった。

Tim Pratt
Contributing Author

公式ブログ記事より


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