Tales of Lost Omens:血の運命

私はそれが自分のもとにやってくる、ということを知っていた。私の運命は三度呪われていて、それが解かれることはないだろう。私の血も、私の生まれも、私の信念も。私が自分が選ばれることを知っていた。母さんが、教えてくれたように。

「13歳の年がやって来るわ。それを防ぐことは出来ないけれど、備えることは出来る」

24の黒い蹄、4つの鉄に縁取られた車輪、14の赤く輝く目、6頭立ての馬車……私の運命の先触れ、私の定め、私の宿命が、囁き一つなしに私に向かって、舗装された通りを滑るように駆けてくる。チェスカの善良な市民達は散らばり、戸口に飛び込み、鎧戸を閉め、怯えるネズミのよう路地に駆け込む。私は立って、自分の運命を待った。

黒檀の馬車が私の前に止まり、その御者の燃える石炭のような目が、展示物の蛾をピン止めする針のような目で私を貫く。片手が御者の外套を外すために手綱を放すと、冷たい鉄で打たれた冬の枯葉のように、その鎧が、がさりと音を立てた。血のように赤いリボンで縛られた黒い巻物がほどかれ、死ぬことのない手が私にそれを差し出した。

「そなたの招待状だ、アルドーラの娘よ」
氷のメスに触れられたように、その声に私は寒気を感じた。

「そうでしょうね」
私は招待状を受け取り、リボンを引っ張り、そして私の宿命を解き放つ黒い巻物を開いた。
「マリリーサ・バルカス・アルドーラ」
私は自分の名前を読み上げた。それは、そのページに記された唯一の言葉だった。

鎧をまとった御者がジェスチャーをすると、馬車の扉が静かに開いた。
「ようこそ」

真夜中の馬車が私を呑み込んだ。

黒い革、サテンのドレープ、そして恐怖に歪んだ青白い顔が私を迎えた。私は座り、裾を直した。座席は冷たく、彼らの顔はもっと冷たかった。それは、私達6人の親族全員が共有する運命を決定づけていた。私に分かったのは1人だけで、たった1度しか会ったことのない、いとこだった。彼の目は控えめに私を認識しており、その片手は怒りで牙をむき出しにした銀の狼の形をした、歩行用の杖の頭部を握っていた。他の人達は、2人は農民、1人は貿易家、1人は商人、そして1人は売春婦で、私達が共にする運命に諦め、私から目を逸らしていた。彼らの目には、死よりも暗澹たる未来が潜んでいた。

馬車が動き出した。だけれど、振動はなく、聞こえるのは自分の心臓の鼓動と、息を呑む音だけだった。商人が前後に揺れていた。彼の手は白くなるほど強く握りしめられている。売春婦はふくよかな胸元から銀のフラスコを抜き、一口、飲んだ。彼女は私と目が合うと、一瞬、笑みを浮かべた。

「お嬢ちゃん、勇気の出るもの、飲む?」
彼女がフラスコを持ち上げると、ブランデーの香りが空中に漂った。

「遠慮しておきます」
私はもうずっと前に勇気を炎にくべたのだ。

「楽にしていいよ」
彼女は再び飲み、フラスコを押し込んだ。

「こんなこと出来ない……こんなこと出来ない……」
小柄な商人が呟いた。

「ああもう、黙れよ!!」
私の紳士的ないとこが彼を嘲った。

「金を払ってそいつに任せようぜ!」
農民の1人が遮った。タバコで汚れた歯からその唇が反り返った。

「そんな口聞いて――」

「出来ないよ!」
ヒステリックな商人がスティレットを抜いた。

「やめて!」
噛み殺す前に言葉が漏れたが、それは良からぬことだった。

商人の震える手がその喉元に、ぎざついた赤い線を描いた。血しぶきで向かいに座っている売春婦が濡れるほどに深く、彼は喉を切り裂いたのだ。彼女は手を上げて生温かい血をかわし、悪態をついた。血しぶきが緩やかになっていくにつれ、商人は窒息して咳き込んだ。

「大馬鹿め」と私のいとこは笑った。
「もう死んだって逃れられないのに」

それは本当だった。商人の血は、その瀕死の心臓の最後の鼓動と共に、流れるのをやめたのだ。彼の青ざめた顔に驚きだけを残して。死ねないことが分かって、彼は血まみれの唇であえぎながら瞬きをした。私達はそんなに簡単に運命から逃げられはしないのだ。

娼婦がフラスコを抜いてその中身を一気に流し込んだ。安っぽい頬紅と飛び散った血の斑点の下にある彼女の頬は青白かった。

「地獄め、悪魔め」無愛想な農民が悪魔を追い払う仕草をした。

「無知な愚か者め、そんなことをしても救われないぞ」紳士的ないとこの鼻には皺が寄っていたが、それは血の悪臭のためかもしれないし、激しい軽蔑のためかもしれなかった。

「あなたの杖の中に隠した刃だって助けてくれないわ。たとえ魔法のものでもね」
どうして自分が口を開いたのか分からなかったが、とにかく、彼が自分を例外だと思っているなら勘違いだと教える必要があると感じたのだった。
「人間の作り出したものはみな、あなたを助けてくれないわ」

彼は私を見て眉を寄せた。
「マリリーサ、君は自信があるようだね」

「ええそうよ」私は再び裾を直した。私は救いの唯一の希望を求めてフリルをたぐった。冷たい金属が手のひらに触れた。
「私はこの人生でずっと、自分の運命を知っていたわ、ロード・ウォルセイヴン。あなたがそうだったようにね」

「おお、君には自分を救ってくれる何らかの仕掛けがあるというんだね!」彼は怒りから勇気を奮い立たせ、私を睨み付けた。

「仕掛けなんてないわ」私は唯一の望みを握りしめ、静かに祈った。

「見ろ!」貿易家が窓を差した。風景が通り過ぎていく。

廃墟となった建物、老朽化したコテージ、幽霊のような輝きを放つ崩れた塔といったものが、息絶えたマイゼレーネの集落を通り過ぎていくとき、かつての壮大さを思わせる影で青く燃えていた。私は研究してそれを知っていた。馬車の外の誰もが幻影を見ることが出来るのか、あるいは私達の宿命づけられた瞳にだけ映るのかは謎だった。私達の目的地へと続く霊体の橋が、ラロバ湖の暗い水面にかかっていた。私達を乗せた馬車が橋を渡るのに止まったのではなかった。静かな水面が私達の下で渦巻いていた。恐らく、生者に飢えているのか、私達の運命を歓迎しているのだろう。

私達はバスタードホールの門の、歯のついた顎、冷たい鉄の蝶番、歯車、そして悲しい鳴き声で挨拶する鎖を通り抜けた。農夫の1人が泣き始めた。馬車は広い中庭まで進み、堅固な玄関の前で止まった。

3つの背の高い人影が私達の到着を待っていた。肌の青白い、白髪交じりの髪の女性に、胸にウルガソーアの印を戴いた別の女性、そして腕に束ねられた堤を持ったフードの人影である。

私は、彼らがこの出会いのためにずっと準備をしてきたのを知っていた。

馬車の扉が開き、私は運命に背中を押された。私はしっかりとした歩みで、無駄な叫びを上げないように歯を食いしばり、定命の者から作り出されたものでない銀の棘を手に握りしめた。運命に向かって歩き出すと、燃え上がる太陽の炎が私の手のひらを焦がした。

Chris A. Jackson
Contributing Author


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