Tales of Lost Omens:雨の降るとき

「クーヴォ、おいでなさいよ!」
セリエットはクーヴォの袖を引っ張ると、彼の集中力を乱し、複雑な精神のトランスを意味不明なものへと崩壊させた。同僚の学徒に目をしばたかせ、彼はセリエットの大きな防水用の外套に困惑した。マガンビアの大地に最後に出た時、空は青く、雲一つなかった。そんなにも長い間、この片隅で読書していたのだろうか? 多分、セリエットはまた別の野外研究の旅から戻ったのだろう。セリエットが様々なメンターと行う行ったり来たりの旅の全てを把握することは難しい。
「おいでって、どこに?」

彼女はくるりと外套を翻した。
「来て、踊りましょうよ!」

クーヴォは、うめいた。
「パスするよ」
彼の前にある魔導書、赤き星の戸口を通るという仮想の旅を記録したその本は、当然ながら、老魔術士ジャタンベその人によって書かれたもの、というわけではなかった。この学校(クラスやスケジュールのない場所を学校と呼ぶのは奇妙なことだが!)の設立者の本当の歴史は神話に包まれている。この本の作者の祖母は子ども時代に『十人の魔法戦士』の一人の末裔から話を聞いたことがあるといい、クーヴォが手に入れられる可能性が高い一次資料にかなり近いものだった。
「この本はもの凄く重要なんだ。『識者』に昇級したなら、すぐにでも踊るんだけどね」
クーヴォは最近、『入門者』としての期間を終えたところだった。それには、十年前の遠征で回収されて、それ以来、適切に分類されたことのない巻物や惑う書でいっぱいの部屋を分類するのに一年を費やす必要があった。『従者』に昇級してからというもの、彼は秘術使いのサンダ(彼女を、さまよえる者サンダと呼ぶ者もいれば、略奪者サンダと呼ぶ者もいた)が以前の遠征で発見したものを翻訳する手伝いをしていた。クーヴォが元々住んでいたアブサロムの『神秘の学院』で学んだ後、マガンビアにやってきたのは、大ムワンギには隠された大いなる遺物が数多くあると聞いていたからだった。マガンビアの多くの側面に当惑しながらも、翻訳すべき宝物があるという点では失望はなかった。

セリエットはクーヴォの反対側に倒れ込み、彼の手から本を奪い取った。クーヴォはため息をついた。抵抗しても無駄だと知っていたのだ。セリエットはナンタンブ生まれで、両親はアカデミーと関連があった。彼女はマガンビアの塔や、天井や、広間や、原野で育ったのである。彼女もまた『従者』だった。そして自ら、彼女はクーヴォを庇護することに決めたのだった。それは迷惑であるというよりも、そう、心地が良かった。彼女の導きなしには、どこが講義室なのかクーヴォはまだ分からなかっただろうし、実験室の演習で、ここで採用されている緩やかで奇妙な魔法へのアプローチを教わることもなかっただろう。

「踊るなんて言ったかしら?」
と彼女は言った。
「許してね。私が言いたかったのは、『めったに見られないハルシオン融合力の顕現において始原と秘術の熟達した技能が高レベルで相乗作用するのを来て見て』ってことだったの」

「なんだって」
クーヴォは本を閉じた。

「何でそう言わないのさ」

「これはまさにダンスに見えるね」
クーヴォは、楽器をビートで叩くドラマー達の列の側に立った。そうしなければ、自分の心臓の鼓動が奪われそうだった。一枚の葉が彼の頭に落ちてきて、長い草がローブの下で、彼のかかとをくすぐった。クーヴォは外に出るのが嫌いだった。大ムワンギへの旅をするだけで、一生分の青空を見たのではなかっただろうか?

「私は、もの凄く複雑な織物みたいな呪文発動をあなたがしたのを見たことがあるわ」
とセリエットは言った。
「もしくは、ミツバチの群れをかわすみたいな感じ。このダンスは人生の絶頂の祝福であって、自然と秘術魔法の混ざった呪文の構成要素でもあるのね」

「彼らは何をしようとしているんだい?」
クーヴォは森の下の開けた場所の集会を見渡し、誰が儀式に参加しており、誰が自分のような傍観者であるかを見分けようとした。精巧な螺旋のペイントをつけた女性は明らかに参加者だったが、あのキャットフォークは? あれはニダル人か? ここに集まった人間には驚かされる。参加しようとしている人間には、マガンビアの仮面を被っている者が何人かいた。カモシカ、ライオン、そしてトカゲも?
『従者』であるクーヴォはそういった仮面を作る権限があった。それによって彼はもっと直接的に自らの霊魂に触れることが出来るようになり、仮面は徐々に自ら命を持ち、ある種の使い魔として働くようになるのだ……だが、彼はそういった二つ目の顔の概念に困惑しており、仮面作りは強制ではなかったため、その話題を避けていた。
セリエットは腕を広げた。

「彼らは雨を降らせようとしているのよ」

クーヴォは彼女を一瞥した。どうして彼女がそんなに興奮しているのか、分からなかった。雲が集まっていた。天候の制御は確かに上級魔法だが、アブサロムにいたクーヴォの師匠の何人かは、季節さえ良ければ、雷の嵐や竜巻さえもを呼び出すことが出来たし、ドラムの列や協力者の群れといったものも必要としなかった。
「それだけ? 雨?」
彼女は笑った。
「ええ、そうね、ここで雨を降らせるのは、大したことじゃないでしょうね。でも、アスピス・コンソーシアムが近隣のある野蛮な国で、ひどい干ばつを起こしたの」
彼女は曖昧に、北の方向を指し示した。
「私たちのグループはそこに旅して、雨を取り戻すの」

「つまり……これは、数時間の通り雨を呼び出す儀式じゃないってこと?」
それが、彼の知っている天候制御の限度だった。

「あら、違うわ。秘術の天候制御の手法から始めたのだけど、始原魔法の方が土地と大気に深い繋がりがあって、持続可能な、継続的な方法で地域のバランスを取り戻すの。単に天気を変えるんじゃなくて、気候を治療するのよ」

「つまり、秘術使いが火花をつけて、始原術者が炎を続けるための燃料を作るわけだ」
とクーヴォが言った。彼は今や、大気の変化を感じていた。圧力が低下し、雨の香りがする。

「火っていうたとえ話はどうかしら」
とセリエットが言う。
「でも、多少はあってるかも。ここが秘術、ここが始原ってわけじゃないの。力は合わさっていて、熟練の魔法使いには、両方の魔法を一度に使う人もいるのよ? それがハルシオン魔法。新しくて素晴らしいものを作り出すために体系を混ぜ合わせるということ」
彼女は彼に腕を回した。
「それって、あなたがここにいる理由じゃない? クーヴォ。それtもあなた、古い本を読むためだけに来たの? 本は素晴らしいわ。でも、マガンビアに仕えるということは、物質界に生きて、物質界をよりよく変えるということなのよ。私達と来て。私達の踊りにあなただけの力を貸してよ」

彼は身をかがめた。
「僕にはやるべきことがたくさんあるんだよ、セリエット」

「読書室にとどまりたいなら、サンダはあなたの才能を活用し続けるでしょうね、それは確信してるわ……でも、彼女はあなたを永遠に『従者』にしておく。もし『識者』になりたいという希望があるなら、あなた独自の研究をしたいのなら、外に出なきゃ」
彼女は自らの頭を指し示した。

「教えて、クーヴォ。あなたが研究をしているのは、何のため? 目的は何?」

それは彼がかつて考えたことのある、だが、常に後で考えようと後回しにしてきた質問だった……だが今ではもう、遅すぎるのかもしれない。温かくて乾燥した場所にとどまって、サンダが遠征から持ち帰ってきたものを翻訳し、技量の範囲で確かに作業をすることは、確かに魅力的だった。だが、クーヴォは知っていた。セリエットが正しい。それは初心者の仕事で、『入門者』としてやってきたことと、本質的に変わらない。それどころか、アブサロムでやっていたこととすら変わらない。彼は常に、知識の価値そのものを信じていたが、目的をもって知識を使うことに新しい満足感があるだろうか? 彼は伝説の飛行する都市のために、天候パターンを操作するというショーリーの手稿から写されたと言われている巻物を翻訳したところだった。もしかしたら、あれを適切に始原魔法と混ぜ合わせれば、ここで有用なのかもしれない……。

雨が降り始めた。最初はわずか数滴だった。セリエットは腕を広げ、くるくると回りながら太鼓にあわせて踊り、笑い続けた。数瞬後、クーヴォは彼女に手を伸ばして一緒にくるくると回った。天が開き、恵みを運んでいた。

 

About the Author
Tim Pratt is the author of more than 20 novels, most recently the Axiom space opera series, including Philip K. Dick Award finalist The Wrong Stars, The Dreaming Stars, and forthcoming third volume The Forbidden Stars. Tim’s five Pathfinder Tales novels—City of the Fallen Sky, Reign of Stars, Liar’s Blade, Liar’s Bargain, and Liar’s Island—are available now. He’s a Hugo Award winner for short fiction, and has been a finalist for Nebula, World Fantasy, Sturgeon, Mythopoeic, Stoker, and other awards. His collection Miracles & Marvels is coming this fall. He tweets incessantly (@timpratt) and publishes a new story every month for patrons at www.patreon.com/timpratt.
About Tales of Lost Omens
The Tales of Lost Omens series of web-based flash fiction provides an exciting glimpse into Pathfinder’s Age of Lost Omens setting. Written by some of the most celebrated authors in tie-in gaming fiction, including Paizo’s Pathfinder Tales line of novels and short fiction, the Tales of Lost Omens series promises to explore the characters, deities, history, locations, and organizations of the Pathfinder setting with engaging stories to inspire Game Masters and players alike.


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