Tales of Lost Omens:生まれ変わるということ

森の合間で、木やその他のものが弾ける賑やかな音もなしに、炎がまたたいていた。四匹の魚が、ブルーブロンドのフライパンの上で、安全に食べられる程度に冷ますために隅の方に置かれ、じゅうじゅうと音を立てていた。ロウソクと香料を練った棒が地面に設置され、夜闇に向かって上へと渦巻きながら、くすぶる燃えがらから煙が立ち上っていた。小綺麗な野営地の住人は、圧倒的な華やかさだった。どんな宮廷の主役を担う女性にも並べるような衣類を身につけ、その髪は光の中で炎のように輝いている。最も特筆すべきなのは、チョウのパートナーに少しの手がかりを与えたであろうもので、彼女の背後にそびえる精巧な緑の豪邸であった。森のまっただ中に、貴族の豪邸があるのである。

彼女に近付くのは、愚か者の所行だろう。この女がもしこれまでに見たことがある何かなら、メギツネだとチョウは心の中で思った。それでも、頭の悪いチョウのパートナー達はこの女を強盗すると決心した。チョウの言葉は残りの一味を止める役には立たなかったのだ。チョウは最終的に諦め、後ろから支援すると約束して運命に彼らを任せた。そして後ろに留まった。視界の遙か外に。

チョウはその距離にすら、いるべきではなかった。恐らく。少なくともその場に留まって、何が起こるかを見届けるべきだと感じたのかもしれなかった――長年に渡って分かち合ってきた勝利と戦利品のために、少なくとも、仲間に借りがあるのだった。

恐らくだが、その女だった。チョウは、人間の顔の背後にキツネを隠した別の人物を見たことがあった。チョウが知っている別の人物は、本当に彼女に似ていた。チョウは仲間達が接近していくのをじっと見た。ヤフイは、いつものことだが演劇めいていて、友好的な旅行者が驚異的な強盗に豹変するという演技(もし、彼を友好的だと信じる者がいるなら)でその女性を怖がらせようとしていた。その女が立ち上がったとき、チョウは本能的に木の陰に飛び退いた。少しでも内蔵が飛び散ってきたなら、飛沫の飛んでくる場所にはいないほうがいい。そうしていてすら、覗き見するのに目をそらさざるを得なかった。その女が自分の周囲に魔法の力を呼び出したとき、その髪の毛は重力を失ったかのようだった……そしてそれから、炎へと爆発し、彼女の姿は巨大な炎の鳥へと変化したのだ。

フェニックスだ、とチョウは思った。強烈な衝撃に顎が開きっぱなしになった。

ヤフイとその他の者達にはもはや威厳はなかった。剣を落とし、地面に崩れ、加賀屋K獣から距離を取ろうと必死に後ろへ向かって這いずっていた。彼らは弱い者いじめは得意だが、訓練された戦士ではないのだ。逃げるために浮き足立った彼らに、フェニックスは翼を動かした。すると、森の合間を包む炎の壁が現れた。魔法の業火は木々を呑み込んだが、歯も枝も、黒ずんだり焼けたりはしなかった。チョウと同じようにヤフイもそれに気づき、地獄の炎を跳躍して抜けることで自分の運を試すことにした。その結果、彼の髪の毛と服は炎の中で焼けた。受け身を取って地面をくるりと回転しながら炎から出ると、彼はパニックで身を竦めた。

チョウには受け止めきれない衝撃だった。ショックでチョウは姿の制御を失った。自分の人間の変装から、獣の鼻面と白い毛皮が飛び出すのを感じ、チョウは更にもう少し、変身して尻尾のある人型生物から、小さな四つ足の森の生き物へと姿を変えた。幸運だったなら、普通の狐の振りが出来たかもしれないが――ああ、これは間違いだった、酷い間違いだった;この姿では熱に耐えられない。チョウは激しい残り火と、ジンジンとする毛皮とヒゲの痛みから逃れるために森の合間から一目散に飛び出した。

チョウが鼻で肉球をこすり終える頃までには、女は再び人間の見た目になっていた。今や、彼女がチョウに気付いていない可能性はなかった。雪のように白いキツネが彼女のいる森の合間の中央にいて、暖かい大気の中に氷の吐息のような霧が出ているのだ。仲間の山賊達が頼りにならないと知りながらも、チョウは息を呑んで仲間を見渡した。少なくともヤフイは生き残っているように見えたが、彼は火傷をしていて、眉毛をなくしていた。

「この土地では、山賊行為の罰は処刑です」

と、捕縛者は言った。

「少なくとも、そうだったのです。私は長い間、不在にしておりましたから、法律は変わっているかもしれませんが」

変わってはいない。だが、チョウはそれを言う必然性を感じなかった。他の山賊達は何か意味の無い言葉をぶつぶつと口にしていた。

「ですが、私が今、行っていることもまた法に従ってはいません。全ての悲劇もまたそうでしょう――名誉と人間らしさの間の葛藤ということ」

女性は瞑目した。どうやら反応するかどうかは自由のようだった。彼女はチョウにジェスチャーし、それから手を地面に下げた。はっきりとした、こちらへ来いというサインだった。

「あなたは狐狸の精かしら? お話しましょう」

チョウは馬鹿の振りをして彼女を困らせようとはしなかった。それは無駄だろう。この女性は古の存在だ――彼女の話し方、力、そして目に現れている。

「長いこと、その言葉が使われるのを聞いたことはありません」

チョウは言って、するりと真実の姿に戻った。狐の顔をした、二つの尾を持つ人型生物だ。そうすれば、もっと簡単に話をすることができる。今までに、山賊の仲間達の間でもっと一般的な自分達の種名が囁かれるのを聞いたことがある。キツネの化け物。川喰らい。チョウが今後、仲間を再び働くことは出来ないだろう。一種の悲しみを覚えたことに、チョウは自分で驚いた。

「チョウと申します。この卑しい狐狸の精めは、あなたに何をして差し上げられるでしょうか?」

チョウは三つ指をついて頭を下げながら、そう尋ねた。格式張って、尊敬のこもった話し方をするために最善を尽くしたが、代わりに大げさになってしまったようだと感じた。

「私はハオ=ジンです」

女は礼儀正しく、そう名乗った。そしてチョウはついに理解し、それを信じた。
ルビー・フェニックス。
国中で、そしてこの時代で最も強力な妖術士だ。恐らく、全ての時代においてでも。彼女の名誉にちなんで名付けられた子どもは大勢いるが、チョウが今、目にしたような生々しい魔法を宿した者は一人もいないだろう。彼女はチョウの感動を丁寧に無視し、続けた。

「私は死せる人々を探しているのです」
「死せる人々?」

チョウは繰り返した。耳慣れた単語ではなかったし、字義通りに捉えれば、わけがわからなかった。この森には多くの死体があったし、アンデッドだっていたが、それがハオ=ジンの求めるものだとは思えなかった。

「この言葉はもはや使われていないのですか?」

ハオ=ジンは一瞬のためらいの後に、そう尋ねた。

「ルン=ワ帝国が死亡を宣告した人々のことです。彼らの家は破壊され、系譜の記録は燃やされました。その言葉はもはや、耳にすることはないでしょう。その名前は神話になるでしょう。彼らは抹消されたのです。もはや、現実にはいない」

チョウはその言葉の重みを噛みしめた。死せる人々。

「そんな人達を誰がどうやって見つけられるのか、分かりません。ルン=ワですら今では、神話みたいなものなのです」

「ですが、私は彼らの名前を覚えていました。ザイジャイの人々。彼らはかつて、ここに住んでいたのです」

ハオ=ジンはそう言って立ち上がり、飾り立てられた緑の邸宅の中へと歩き始め、チョウについてくるように仕草でうながした。邸宅に入っていくと、腕いっぱいの宝飾品や謎めいた言葉で書かれた本に巻物といったもので彩られた博物館になっていた。衣装や頭部の飾り、全ての糸と色に活気があり、素朴だった。チョウは自らを律することが出来ずに手を野場s、その刺繍と繊細に加工された金属を調べて、畏敬の念に目を見開いた。このような模様のものを見たことはない。この芸術様式を見たことはなかった。それは抹消されたものなのだ。チョウが生まれるよりも前に抹消され、知られることもなく奪われた――だが、いや、待てよ……

「これを前に見たことがあります」

チョウは、ひとしきり考えた後にそう言った。指の間に翡翠と銀のビーズを遊ばせながら。

「南に40里いったところの村に、これを作っていた老人がいました」

我々が気付かれないようにあの男の積み荷を奪ったのです、とはチョウは言わなかった。そのことについて非常に申し訳なく思い始めていた。

「彼がまだ生きているかは分かりませんが、でも……」

「道案内をなさい」

チョウがどうやって言葉を終えようか考えるより前にハオ=ジンが命令した。彼女は家の中にフライパンと皿を戻すために後ろにステップして外に出ながら、チョウにもそうするように促した。チョウは、建物が子どもの木製のおもちゃの大きさに縮み、彼女の手の中に収まったのを見て畏敬の念を覚えた。彼女はその他の山賊達を一瞥した。明らかに彼らが自分の障害にならないのだと判断するよるまでもなく、その運命をどうするか考えているようだった。女妖術士の腕の一振りで、野営地を囲んでいた炎の壁は消えた。チョウは、彼女が「行っていいけど、もう悪いことをしないように」というようなことを、適切な威厳で言おうとしているのだと思ったが、山賊達はそこまで言う前に駆けだして悲鳴を上げた。

「おいで」

ハオ=ジンは、強盗団の道化ぶりに溜息をつきながら、言った。一陣の風が彼女のキャンプファイアを吹き消した;別の風が二人を空中へと運んだ。二人は地面を離れて上へと持ち上げられ、チョウはその高さに頭がくらくらしてきた――あるいは、その速度のためか、薄い大気のせいだったのかもしれない。チョウはどうにか意識を繋ぎとめながら、片方の震える爪で下の小さな点を指し示した。降りるのは、ゆっくりでも心地よくもなかった。ハオ=ジンが徒歩で村に近付いたとき(彼女は住民達の神経に気遣って町のただ中に着陸することはしなかった)、チョウは息を切らしていた。

逃げるなら今だ。チョウは思った。

しかし、死せる人々というフレーズの記憶が、妖術士に引き続き、町に対してチョウをおののかせた。彼女が、チョウが手にしていたビーズの糸を取り出し、四人の小さな集団に掲げた。その時、別の男が小さな家から急いで飛び出してきた。男の背後から女がついてきた。チョウが現場にたどりいた時には、その男は自分の手を掲げていた。その掌には、似たような三つの翡翠のビーズが掲げられ、ハオ=ジンの目に映っていた。

「ずっと前に、安全に保管して欲しいとお願いされていたのです」

ハオ=ジンはそう言って、どこでもない場所から古い本を何冊か、取り出した。彼女は慎ましやかなお辞儀をした男に、それらを差し出した。

「お返ししなければならなかったはずの時代から、随分と長く経ってしまいました。どうかお許し下さい」

彼が注意深くその本を手に取り、開いたときだった。チョウはその男の顔に感情が奔放に駆け巡るのを見た。混乱。それが理解へと変わり、そして不信へ。それから、果てしない悲しみへ。何世代にも渡る、癒されることのなかった……そして今、慰めを得たであろう、悲しみだった。

「祖父がこの話をしてくれました」

村の男は、きっと顔を上げながら、そう言った。古い本に載った貴重な、忘れられた言語が涙で汚れて、読めなくならないようにするためだった。

かつての山賊は村人達がハオ=ジンの周囲に集まるのを見た。その声には疑問と感嘆がいりまじっていた。かすかな風がチョウの毛皮を撫でていった。チョウは突然、その胸に冷え切った孤独が埋葬されているのを感じた。


ハオ=ジンとその過去の遺物について詳細を知りたければ、7月30日発売のLost Omens: Legendsをチェックしよう!

著者について
Eleanor FerronはPaizoの開発者で、主にPathfinder Lost Omensの製造ラインで仕事をしている。

Tales of Lost Omensについて

Tales of Lost Omensについて
Web媒体の短編創作小説のシリーズであるThe Tales of Lost Omensは、Pathfinderの失われし予兆の時代Age of Lost Omensについてのわくわくするような一幕を提供する。PiazoのPathfinder Talesの小説や短い創作小説を含む、ゲームの関連商品で最も高名な著者達の何人かによって書かれたこのTales of Lost Omensシリーズは、Pathfinderの設定にあるキャラクター、神格、歴史、場所、組織を、ゲームマスターとプレイヤー達を同じように触発するような魅力的なストーリーで紹介してくれる。


このページはPaizoのコミュニティ・ユース・ポリシーに基づいて、Paizo Incの商標あるいはコピーライトを用いています。
このコンテンツの使用あるいはアクセスについて料金を頂くことは禁じられています。
このページはPaizo Inc.の出版物ではありませんし、保証を受けているものではありませんし、特に認可を受けたものもでもありません。
Piazoのコミュニティ・ユース・ポリシーについての更なる詳細については、paizo.com/communityuseを参照して下さい。
Paizo.IncとPaizo製品の更なる詳細については、paizo.comを訪問して下さい。
paizo.com

“This page uses trademarks and/or copyrights owned by Paizo Inc., which are used under Paizo’s Community Use Policy. We are expressly prohibited from charging you to use or access this content. This [website, character sheet, or whatever it is] is not published, endorsed, or specifically approved by Paizo Inc. For more information about Paizo’s Community Use Policy, please visit paizo.com/communityuse. For more information about Paizo Inc. and Paizo products, please visit paizo.com.”

元ブログ

コメント

タイトルとURLをコピーしました