Tales of Lost Omens:異邦人に優しさを

Tales of Lost Omens:異邦人に優しさを Be Kind to Strangers

スタッフ長のパトロスは再び冷笑した。アイビーは、それが自分にとって問題を呼び込むことになるだろうということを知っていた。このウェイトレスには、何がこの無愛想な男の気に触ったのかを知るために、目線をやる必要すらなかった。

ドック側の窓際(パトロスは、この施設の一等席だと訂正するだろう)に座っている二人のお客は、普通の人々から充分に目立っていた。彼らの何が一番、気に障るのかということは、分からなかった。

女性の衣類はあまりにもぼろぼろだったし、男性の衣類はあまりにも異国のものだった。女性は意地が悪そうで、そして人を不快にさせていた。実のところ、アイビーが思うには、パトロスはこの二人組が両方とも老人で、女性が信じがたいほど醜いということに最も怒っているのだった。

それについて彼は一言も口にしなかった。それはタルドールの流儀に背くからだ。だからパトロスは冷笑し、そして言った。

「あの不潔な鶏をテーブルに置くのか。ここを小屋だと思っているみたいに!」

いつも食事処に他の客が犬を連れてきて、ペットが齧り付けるように汚れた残り物の骨を床に投げたりはしないのと同じくらい当然に!

次に何が来るかを知らなければ、アイビーは目をむいて呆れていただろう。彼女は床に視線を落とし、給仕用のプレートをつかんで胸の前に持ち、自分が透明になったらいいのにと思った。もし、この男にうっかり気付かれずにすんだなら、恐らく、彼はただ不平を言って、それだけですむはずだ――

「アイビー!」

パトロスはが吠えた。そしえ、哀れなウェイトレスは、予想していたにも関わらず、肩を怖気が走るのを感じた。

「あの女にあのシラミのついた鳥を出て行かせるか、あの女が出て行くかだと教えてやれ!」

臆病者、とアイビーは思った。

彼女は出来るだけゆっくりと移動した。一歩ごとに恐怖が形になっていく感覚がして、足を引きずっていたが、パトロスの目が自分に向けられていたので、いつまでも歩みを引き延ばしておくことは出来なかった。

その年老いた女性をはっきりと見ることが出来るようになるほど、アイビーの恐怖は大きくなった。恐らく、それはこの老女が非常に恐ろしかったからだった――アイビーは自分が浅はかだと思いたくはなかったが、では他になんだというのだろうか? ほとんど出勤するたびに、彼女はこの老女ほど不愉快ではない酔っ払いを相手にしてきた。

女の歯は鉄のようにきらめいていたが、アイビーは前にもっと派手な入れ歯を見たことがあった。もっと不快ではない素材で作られたものだったが。

アイビーがテーブルにたどりつくよりもずっと前に、女はアイビーを威圧的な眼差しで見つめ、まるでこのウェイトレスを鼻で吹き飛ばせるかのように鼻を鳴らした。今までにそうしてきたように、相手をつまみだす代償;それは、いつだって流れを悪化させるということだった。

「それで?」

老女がパチリと指を鳴らした。そして、アイビーはまた新たな深いおののきと戦うことになった。

「なんなの、お嬢ちゃん? 舌を焼かれたの? 言いたいことを言うか、お茶を持ってくるんだね!」

アイビーは深く息を呑んだ。給仕用のプレートで掌の上の汗を隠せるのは幸いだった。

「マダム……」

老女を不快にさせるかもしれないことを口にする前に、何を言うべきか迷いながら彼女は言葉を紡いだ。

「ここにいらっしゃる間、あなたの鶏のお世話をさせていただけませんでしょうか?」

女は再び、重々しく鼻を鳴らした。今回は、思慮深げに。

「言葉には気をつけた方がいいねえ、ああ、私の鶏の世話かい。もし、あんたが良い子で、ちゃんと世話が出来たなら、あんたに贈り物をやって自由にさせてやろう」

「若い子をいじめなさんな」

年配の男が非難した。彼の恐るべき友人に集中しすぎたあまり、アイビーは彼がそこにいることをほとんど忘れていた。彼の肌が黒く、それはタルドールでは珍しいことというわけではなかった(ムワンギ出身の多くの家系が遠征軍の帰還と共にタルドールへとやってきたのだ)が、それらの誰も、彼のような装いをした者はいなかった。

彼は続けた。

「お祖母さんを気にする必要はないよ、アイビー。君のスタッフ長さんもね。このことについては」

他に方法が思いつかなかったので、アイビーは思った。

この人、私の名前を聞いていたんだわ。

今、何を言うべきか分からなかったので、彼女は何も言わなかった。

「こういうシャイな子は、背中を押してやる必要があるんだよ、じゃないと何にもなりゃしないんだ」

と、「お祖母さん」が不平を言った。

「この子を見てみな。喧嘩っぱやい女と小汚い男に押し潰されちまってる。皿の上のハムになった方がいいくらいさ」

「そうだろう?」

突然、女はアイビーに注意を戻してそう言った。

「お嬢ちゃん、ここから出て行けるチャンスがあるってなら、飛びつくだろう? それが、あたしと同じくらい恐ろしいものだったとしてもね」

それはアイビーの望みだった。このみじめな、ハラスメントに満ちた苦痛から、何よりも逃れたいと思った。だがアイビーは不注意な愚か者の古いおとぎ話を聞いて青だった。そして、タルドールでは風雨に注意することを学んだ。だから彼女は一歩、後ろに下がり、短く頭を振った。

「大勢の『シャイな若い子』が君に脅かされることなく育つじゃないか」

男が友人に嘲笑を浮かべた。

「それとも、あなたは自分がそんなに重要人物だと思っているのかな?」

「当然、あたしは重要人物だよ」

『お祖母さん』は笑った。

「へえ? 賭けでもしますか?」

男が尋ねた。

二人組は再びアイビーに視線を向けた。言葉にされない何かが二人の間で交わされた。老女は頭を振り、片方の腕の下に自分の鶏を抱き上げた。

「無駄だね」

彼女は不平を言い、それ以上の説明をすることなく居酒屋の扉から飛び出した。アイビーと老人は揃って、彼女が出て行くのを見ていた。

「君は、疑わしい贈り物を避けるくらいに賢い。そしてもっと賢いのは、自分を助けてくれる誰かを、求めなかったことだ」

一瞬の後に、男は言った。

「だが君は、もしイエスと言っていたら何が起こっていたのかという好奇心を持ちながら生きることが出来るだろうか?」

「ええ……そうしますとも、サー」

アイビーはそう言った。今やあの女性が去ったので、愛想の良い給仕人の顔に戻るのは簡単だった。

「ご後援に感謝いたします」

老人は頷いた。あるいは、それは小さなお辞儀だったのかもしれない。その後、彼は獅子の頭がついたスタッフを手に持ち、料金を支払い、去って行った。アイビーは安堵の溜息をついた。いさかいなしに状況が勝手に解決されたのは喜ばしい。パトロスはもう、失敗したとアイビーに怒鳴ることはないだろう……少なくとも、激しくは。

ウェイトレスはテーブルの皿を片付けるために移動した。銀とガラスのティーカップは、彼女がこれまでに踊るイルカ亭で使われるのを見たことがあるどれとも違うものだった。カップの一つをトレイに乗せたとき、彼女はその後ろに鮮やかな赤と黄金の卵が置いてあるのに気がついた。普通の雌鳥の卵の大きさに見えたが、それは本物の黄金で輝いており、触れれば、何か奇妙で強力なものがアイビーの指の下でハミングをした。

これは安全なものじゃない。

愚か者ではないので、アイビーは心の中で呟いた。窓の外を見たが、老女とその友達の痕跡は見えなかった。これは何かの試練なの? 最も賢いのは、ここに卵を置いたままにするか、あるいは恐らく、パトロスにこれを渡して何が起きるかを確かめることだった。だが彼女は老人の言葉を思い返した……もし置いたままにしたなら、何が起こっていたかという好奇心を持ちながら生きることが出来るだろうか?

アイビーはファベルジェ・エッグを拾い上げ、ウェイトレスのエプロンのポケットにそれを滑り込ませた……


この謎多きパトロンと、彼らがどんな種類の贈り物を与えられるかを知りたいなら、7月30日にリリースされるLost Omens:Legendsをチェックしよう!

著者について
Eleanor FerronはPaizoの開発者で、主にPathfinder Lost Omensの製造ラインで仕事をしている。

Tales of Lost Omensについて
Web媒体の短編創作小説のシリーズであるThe Tales of Lost Omensは、Pathfinderの失われし予兆の時代Age of Lost Omensについてのわくわくするような一幕を提供する。PiazoのPathfinder Talesの小説や短い創作小説を含む、ゲームの関連商品で最も高名な著者達の何人かによって書かれたこのTales of Lost Omensシリーズは、Pathfinderの設定にあるキャラクター、神格、歴史、場所、組織を、ゲームマスターとプレイヤー達を同じように触発するような魅力的なストーリーで紹介してくれる。


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