Tales of Lost Omens: Wheels Aflame

舞い上がった塵が地面に落ち着く。殺戮の後に残ったのは二つの人影だけだった。かたや、みなぎった筋肉と歯を持つ大きな塊。かたや、小柄なノームであったが――あらゆる可能性を撥ねのけて、いまだ動いている。

トルリック・ウィルダーバークは白くなるほど握りしめた拳で車いすのレバーを握り、歯を食いしばった。呼吸が苦しい。口の中に砂とすすがこびりついている。周辺の倉庫は粉々になっていた。壊れた木の板や木材が車輪の重みで更に砕ける。背後では、彼の補助具に動力を与えていた蒸気機関が一定のリズムで座席を揺らしていた。

押し戻されていたトロールが、壊れた石と割れた屋根のタイルで出来た山から抜け出した。うなり声を上げながら、よろめいたものの次第にバランスを取り戻しながら真っ直ぐに立ち上がる。その低い鼻からは、黒い血がにじみ出ていた。トルリックは右の車輪の後ろに引っかけていた剣を手探りで捜した。

その手は、宙を切った。

氷のように冷たい恐怖が彼を走り抜けた。剣が。喉からせり上がってくる混乱を哀れにも飲み下そうとし、トルリックは座席の上で向きを変えようとして身をねじったが、安全ベルトが太ももに食い込むだけだった。剣だけでなく、鞘までなくなっている。装備を固定していたはずのベルトは崩落の際に切れてしまったに違いなかった。砕けた石や木の弾幕を浴びる間にガタガタと音を立てていたのだろうが、気づけなかったのだ。

ほんの数フィート先で、トロールが痛みに眉をひそめている。

レバーをゆるめ、トルリックは椅子のアームを握って周囲を見渡した。この獣は今は朦朧としているが、急速に焦点を取り戻し始めている。硬い革紐が更に食い込み、彼は周辺に目をやりながらもぐっと顔をしかめた。

倉庫の中に残っているものはほとんどなかった。奇妙な角度ながらわずかに残り、地面から突き出ているものも、壊れている。砕けた木片が、まるで折れた骨のように突き出ている。爆破された石の塊と粉々になったガラスによって固定されているのだ。彼が投げた錬金術爆弾は確かに仕事を果たした。トルリックが生きていたのは幸運だった。

だが、非常に不運なことに、トロールも生き残ってしまったのだ。

瓦礫に目をやった瞬間、目に何かのきらめきが飛び込んできた――鉄の輝きだった。ほんの数フィート先で、傾いた梁に引っかかっている……それは、彼の装備の残骸だった。釘で貫かれ、鞘の軸に絡みついているベルト。そしてその先に、神々の慈悲があったということなのか、トルリックの剣が吊されていたのである。

考えている時間などなかった。計画などない。一瞬を無駄にするごとに怪物が有利になるのだ。トルリックは座席に倒れ込み、再度、レバーを握った。喉から泡を吹くようなパニックはまだ収まっていなかった。剣を手に入れる必要がある。今すぐに。蒸気がヒュウと音を立てる。エンジンが唸りを上げると椅子が命令通りに進み、右に曲がり、ぶら下がった武器を目指す。車輪の下では瓦礫が大きな音を立てながら割れていたが、自分が立てている騒音のことを気に留めることなどできなかった。近くに、すぐ近くに向かった。武器は彼のすぐ前にぶら下がり、あざ笑っているかのようだった。トルリックは手を伸ばし、どうにかしてそれを手に収めようと自由な方の腕に力を込めた。

頼む。

彼は、そう思った。そして願った。耳を傾けてくれる、どんな神でもいいからと。椅子は止まった。彼の指はどうにかして刃の柄に触れるところだった。あと少しだけ高く、あと少しだけ遠く、そうすれば……。

雷のような轟音が地面を揺るがした。

トルリックは呪詛を吐いた。

重い足音だった。黒ずんだ爪が地面を擦る音だ。その化け物は、ゆったりといた足取り近づいてきて、一気に二人の間にあった距離を詰めた。手探りしている間、トルリックは自分の鼓動が高く鳴り立てるのを聞いた。別のうなり声がした。大きな音がトルリックの胸部を振動させ、慌てふためかせた。高くへと手を伸ばせば肩の関節が熱くなり、安全ベルトが腰に戦場の痣を作った。

もうすぐそこだ。あとちょっとだ。頼む。どうか――

トロールが四肢を慌ただしく動かし、牙を剥きだしにして襲いかかってきた。逆上した獣の重みに押しつぶされそうになったため、トルリックはすぐに座席に戻り、できるだけ小さく体を縮こまらせた。頭に血が上っていた怪物は目標の上を狙ってしまい、代わりに車椅子のフレームをつかむこととなり、トルリックの体にはかろうじて命中しなかった。そのカミソリのように鋭い爪の先端が防具に引っかかっただけだった。

そして、まだ希望はあった。彼の手がつかんでいたもの、汗ばんだ指に触れる冷たいそれは、剣だった。白い指の関節で握っていた。

レバーに再び飛びかかると、トルリックは不格好に体をひねった。トロールが手から武器を落とそうとするのを避けるためだった。金属が金切り声を上げるほど強くレバーを引くと、エンジンがバックファイアを起こしそうになった。きつくシートに縛り付けられた四肢が車輪をひっかく音がかきけされそうなほど大きな音を立てながらエンジンが強烈に回転した。椅子は唐突に後ろへと傾き、トロールに押しつぶされそうになっているところから抜け出した。怪物の爪がそのフレームを引っかいた。

椅子が下から抜け出したので、怪物はよろめきながら体を前のめりに倒し、混乱した様子で呻いた。その眉間には深くて大きな皺ができていた。トルリックは時間を無駄にすることなく、チャンスを逃さず、シャフトから手を放すとベルトのポーチから小瓶を手に滑らせ、車椅子が自ら回り続ける間に、刃の表面に小瓶をぶつけた。

小瓶は簡単に砕け散った。中に入っていた油が刃の溝に沿って流れると、空気と反応した。効果はすぐに現れた。明るく燃え上がる炎が刃を包んだ。勝ち誇ったような笑いを浮かべると、トルリックは足で再びレバーを前に蹴り出し、二本の腕を使って持てる全ての力を使い、大きく振りかぶった。

Illustration by Firat Solhan from Pathfinder Guns & Gears

緑色をした肉が簡単に切り離され、黒い液体が彼の手を滑り落ちたが、冷たい鉄の上で真紅の炎を灯す錬金術師の炎を消すには至らなかった。トロールは悲鳴を上げ、後ずさりをしながら逃げた。一撃で内臓をえぐりだされそうになったのである。その数メートル先でトルリックは車椅子が大きく弧を描くようにレバーを引いた。その跡には、塵と瓦礫が残った。

頭に血が上った獣は彼に向き直り、黄色い両目を見開いて牙を剥きだしにした。片手に燃える剣を握ったまま、トルリックは再びにやりと笑い、レバーを握った。これからが本当の戦いの始まりだ。


著者について

Sara Thompsonは障害を持つTRPGのゲーム・デザイナー兼ライターである。Saraはこれまでに、Pathfinder, Starfinder, Hellboy: The Roleplaying Game, Bardsungなどを手がけてきた。現在のところ、SaraはR. Talsorian GamesのThe Witcher Pen & Paperを手がけているほか、独自にTRPGのための障害者用の道具を作成スr個人的なプロジェクトを行っている。Saraはまた、the Combat Wheelchairの作者でもある。これは、Dungeons & Dragons 5版のための自家用ルールセットで、Critical Role や Rivals of Waterdeepのようなショーでも見られるし、ライセンスドされたビデオゲームであるIdle Champions of the Forgotten RealmsではキャラクターであるTalin Uranを通じて見ることが出来る。

Tales of Lost Omensについて

Tales of Lost Omensについて
Web媒体の短編創作小説のシリーズであるThe Tales of Lost Omensは、Pathfinderの失われし予兆の時代Age of Lost Omensについてのわくわくするような一幕を提供する。PiazoのPathfinder Talesの小説や短い創作小説を含む、ゲームの関連商品で最も高名な著者達の何人かによって書かれたこのTales of Lost Omensシリーズは、Pathfinderの設定にあるキャラクター、神格、歴史、場所、組織を、ゲームマスターとプレイヤー達を同じように触発するような魅力的なストーリーで紹介してくれる。


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