ジエラ、走らないで! 私よ、お姉さんよ! 来て。聞いてね。時間がないの。
まず、なんで外に、こんな通りにいるの? レッスンの時間じゃないでしょう? 私についてきて。いえ、私たちかしら? まあ、どっちでもいいわね。
ジエラ。耳をふさいじゃダメよ。革命の直後っていうのは、ものすごく騒がしいものなの。見て! ハリアド大公の像が地面に引き倒されているわ。農夫さん達と一緒におじさんがあの不細工な石の頭を私たちが盗んできたカタパルトに引きずってきたのを見た気がする。港から出て行こうとしない頑固な海賊船にあれを投げつけてやればいいのに。アンテュシスがあんな連中を上陸させるわけがないでしょ。
ここで一人で何をしているの? ああ、違うのよ――私はね、この中であなたに会えるのが楽しいの。大使館の正面にあるあの古い像が倒されるのを見るためなら、勉強なんてサボったっていいの。今、まさに、歴史が作られてるのよ、ジエラ。よく覚えて。解放を迎えたこの町並みは、本では絶対に味わえないから。でも、どうやってマイエルの目を盗んだの? 彼女だって年を取ったってのは分かるけど、あの人、年々、研ぎ澄まされていくじゃないの――パンサーみたい。どうやって逃げ出したのか教えて。まさか私から習ったわけじゃないわよね! マイエルの目を盗むなんて出来なかったもの。だから傷が残ってるわけ。
私の洋服が気に入った? 私の好みよりは、ちょっとシェリアックスっぽすぎるんだけどね。でも、家を出たときに着てたのよりずっとずっと動きやすいの。時間があったら、マイエルの針仕事のレッスンを活かして、もっと故郷にあったファッションにしようかしら。
これって、自由船長の一味には見えないわよね、ジエラ! こんな派手な色を着るのはファイアブランドくらいだし、ここはもっと私たちのファッション・センスを見習った方がいいわね! おじさんのボートを賭けてもいいけど、あなたって海賊船をこんなに近くで見たことないでしょ。この1ヶ月で私は2隻、ああいうのを沈めたのよ。
どこで剣を手に入れたか? 誰にも言っちゃダメよ――じゃなきゃ、 家に帰すわけにはいかないもの。ママのなの。どうしてそんなものを持ってたのかは知らないけど。リビングでのいざこざは、これを使ってたらもっと短くすんだでしょうね。最初は重たかったけど、この鎖の海で数ヶ月も戦えば、これがないと変な感じがするくらい。袖についているシミ? ああ、ワインね。洗った方がいいかも――そんな目で見ないでよ、ジー!
あなたが抜け出したとき、ママとおじさんは家にいた? ちょうど落ち着いてきたから、部屋から持って行きたいものがあるのよ。
あの「嵐の女王」が絶望の入り江の向こう側に行ってしまってからずっと、マイエルは毎晩、いっぱいの食事を用意しているの? 家に立ち寄って、マイエルのクリーム酒を一瓶ちょうだいして船のみんなにお裾分けしなきゃならないんだけど。ファイアブランドにお裾分けの仕方を教えなきゃならないしね――あのパンサーさんは私に一杯以上の借りがあるもの。あんなに厳しくしてくれちゃって。家に帰って、酒代を回収しようか。
その服、私よりずっと似合ってる。海水を浴びせてからじゃないと、ほとんどの服が似合わないのよね、私。うん、ママとおじさんの言いつけ通り、ちゃんと食べてるみたいね。私が数ヶ月、いなくなったから、あなたに私の分をあげてるのね。15センチくらい背が伸びた? 年末には私より背が高くなっているでしょうね。
心配させるつもりじゃないの。ただ……あの人達が求めるようにはなれないってだけ。私があなたくらいの年の頃より、ずっと言葉遣いが上手なのね。ちょっと恥ずかしいくらい。あの人達にも、あなたの方が「それらしい」って分かると思う。さみしがってくれてるといいんだけど。私は、さみしいから。みんなのこと、いっぱい考えてる――もちろん、あなたのこともね。あなた、窓から抜け出して騒ぎを見に行ったんでしょ! 思ったより私に似てるのね。私、あなたに悪い影響を与えてるんだわ、ジエラ! 後ろにいさせてね。すぐ後ろをついていくから。中に入ったら、マイエルのクリーム酒の在庫を探す時間をちょうだい――何本も作ってたら、一本なくなってたって平気でしょ。
前にやってたみたいに髪の毛を結ってあげてもいい? 時代に合わせた新しい髪型をやってるの;王冠みたいに十二本の編み込みをするのよ。今から一ヶ月に一本、ヴィドリアンの自律性を維持するためにね。ママが、誰が髪の毛をやってくれたのって聞いてきたら、そう言ってはぐらかすのよ。ママはその考えを褒めてくれると思う。ママとおじさんへのメッセージもあるの。マンドラ・ドゥベは信用してもいいけど、ヴィドリアン「独立」銀行は信用しちゃダメ。これをあの人達に渡して、ヴェインからって伝えて――私からだって言うよりも、真面目に受け取ってくれるから。
もう行かなきゃ。ジエラ。このターコイズの櫛を、あなたの新しい冠にしてちょうだい。これがあれば、私と同じくらいかっこよくなれる。数年も経てば、ママとおじさんは、ヴィドリアン議会に一緒に参加して欲しいって思うはず――時期が来たら、加入するといい。でも、この通りのことを忘れちゃダメだからね! 見渡してみて。もう一度、作らなきゃならないものも、入れ替えなきゃならないものも、いっぱいある。新しい家を作らなきゃいけないし、裕福さを広めていくために新しい店がいる、ヴィドリアンだけの味を作るためには、新しい料理もいる。神様にせよ貴族にせよ、国の行く末を示してくれる偶像はいないけれど、私たちはみんなでそれを見いだしていくことが出来る。議会が雑音になってしまったら、どこかに行って、それを切り開くの。戦うんじゃないけど、剣みたいに切り開くのよ。再建のときには、剣を使うのは私に任せておいて。あなたの傍に居るから。……だけどまず、新しい国のための寄付を調達するのに、「密輸者の刃」に行かなきゃね。泣いたってダメ。すぐ戻ってくるもの。大丈夫、あの島の幽霊になったりせず、ちゃんと戻るから。
ジエラ。愛してる。ママとおじさんのこともね。あの人達も時間が経てば私の進路を認めてくれるだろうし――あなたには、あなたの道を選ばせるべき。そのうち、未来には私のこの剣と、あなたの言葉が必要だって、分かってくれるはず。
だから、そんなに泣かないで。まだ死んだわけじゃないんだから。
著者について
Jabari Weathersはイラストレーター、作家、そしてTRPGのゲーム・デザイナーである。もしかしたらヴェールの向こう側からやってきたフェイで、追っ手から身を隠すために人間界でフリーランスの仕事をしているのかもしれない。君もまた、Omens Mwangi Expanse sourcebookやVan Richten’s Guide to Ravenloft、その他の様々な作品を購入することでこの逃避行を手助けすることが出来る。更に、君はGoblinprincete.comやJmwillustrationのインスタグラムでそのイラスト作品を見ることが出来る。最後に、もし、Jabariが本当に、現実に存在していることを確認したいなら、Twitterの@goblinprinceteをフォローすればいい。忍耐力があれば、証拠をつかめるだろう。
Tales of Lost Omensについて
Web媒体の短編創作小説のシリーズであるThe Tales of Lost Omensは、Pathfinderの失われし予兆の時代Age of Lost Omensについてのわくわくするような一幕を提供する。PiazoのPathfinder Talesの小説や短い創作小説を含む、ゲームの関連商品で最も高名な著者達の何人かによって書かれたこのTales of Lost Omensシリーズは、Pathfinderの設定にあるキャラクター、神格、歴史、場所、組織を、ゲームマスターとプレイヤー達を同じように触発するような魅力的なストーリーで紹介してくれる。
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