Tales of Lost Omens:黄金の破片

「迷子になったのか、幼子よ」

ヒオバは、アゴイベンの森の有名な「ひび割れた森」の一本の木の、その黄金の葉と大きな黄金の幹を見上げていた。声に驚いて、彼女はその主に向き直るために振り返った。小柄な、だが、力強さを感じさせる女性が、十数歩先の木にもたれかかっていた。彼女の顔は、陰に隠れてよく見えなかった。

「あたし……ええと、違うんです。実は、この森を研究するために来たんです。あの、あたしはマガンビヤの学生で――」

「それで、いきなり爆発するかもしれないこの森について、何か学べると思ったわけか?」

「はい」

ヒオバは、自分の目の前にある木に改めて感嘆の念をあらわにした。幹は、本物の黄金と同じ光沢を持っており、触れれば金属のように感じられた。彼女はそれについて学校で耳にしたことはあったが、このような丈夫な木が簡単に……折れてしまうなど、想像することすら出来そうになかった。

女は頷いた。

「知識はよいものだ。だが、経験こそが真実。そなたは、この木々がどのようにしてこの病を発症したのか、知らぬだろう? 学校では教えてくれないのでは?」

女性は近づいてきたが、なお、その姿の大半は森の陰に隠れていた。森の奥には、光は十分に届かないのだ。ヒオバは口を開こうとしたが、女が手を上げたので、動きを止めた。

「学校で教えてくれないことというのはな。地裂の子・アゴビンディが、ヴァンジ川の下から、そなたがこの1時間、眺めていた木の2倍もの身長で現れたということだよ」

ヒオバは腰に手を当てて背中を反らし、その怪物の大きさを思い描こうとした。

「川から現れたアビゴンディは空への道を掴み取った。アビゴンディはカブトムシのような玉虫色の甲羅をしていたが、その飢えた顔と顎はフィーンドそのものだった。その爪は、ナンタンブの立派な建物を何ブロックか一度に破壊することが出来るほど。アビゴンディは食事を捜していて、ナンタンブこそが最も手近で、最も美味な料理だった……」

「殺戮を愛するロヴァガグの子孫が森を襲った。テンペンスト=サン・メイジ達がこの脅威のことを知ったとき、既にもう手遅れだった。幸運であったのは、そなたのようなマガンビヤの学徒達が薬草の研究をしていて、アゴビンデイの暴威の始まりを目にしたこと。その学徒は都市の近くにいた仲間達にメッセージを送り、テンペスト=サン・メイジに何が起こったのかを語り伝えさせた」

女は、ふと、言葉を止めた。

「ノートは取っているか、幼子よ。そなたはここで、得難い教えを受けているのだぞ」

ヒオバは荷物の中から羽根ペンと巻物を取りだし、書き取り始めた。女は苦笑して、言葉を続けた。

『碧空の虎豹』アズール・レオパードが、かくあるべしと説いたとおりに、自らの能力に自信を持って応えたテンペスト=サン・メイジは10人にも満たなかった。最初、彼らの自信はふさわしいものに思えた! 彼らの最初の戦闘儀式によって嵐が作り出され、雲から出てきた稲光はアゴビンディにぶつかっていった。巨大な雷撃の矢が、ロヴァガグの落とし子を見事に真っ二つに切り裂いた」

「魔術士達はこの素早い勝利を互いに祝い合ったのだが、その祝福は長くは続かなかった。というのも、この獣の汚れた体躯の半分、それぞれが即座に、2つの同じ、小さなアゴビンディになったからだ。魔術士達はその戦闘陣形から矢継ぎ早に雷光を投げつけた。それぞれの雷光は対象を元々の落とし子の、僅かに小さなバージョンへと切り裂いた。そして、もうこれ以上は小さくなるまいというくらいになった頃、それは単純に増殖し始めたのだ」

「そのグループが行った最後の行動は、『碧空の虎豹』アズール・レオパードと老魔術士ジャタンベに魔法のメッセージを、そう、助力を乞うことだった。それから、千のアゴビンディの魔法とその歯が、彼らを食らいつくしたのだ」

女は動きを止め、何事かを口の中で呟いた。ヒオバには、それは祈りのように聞こえた。

『碧空の虎豹』アズール・レオパードと老魔術士ジャタンベは呼びかけに答え、おおよそ百人のテンペスト=サン・メイジ達と共に駆けつけた。彼らは皆、思っていたのだ。自分達はこの脅威に対抗する準備があると。だが、それは、とんでもない誤りであった!」

「教科書や教師がそなたに教えているのは、こういうことだろう。彼らはアゴビンディと戦ったのだ、と。だが、それでは不十分というもの。そう。彼らは戦った。だが、それはただの戦いなどというものではなかった――それは、苛烈な戦争というべきものだった。彼らは『粗暴なる獣』の怪物の子孫と、何日も戦った。テンペスト=サン・メイジは最初のうちは森の中から戦っていたが、すぐに森は、まるで刃で出来た草むらを持つ草原であるかのように、大量のアゴビンディに占拠された。そこで魔術士達は空へと打って出て、嵐と風、そして雨を利用して、少なくともこの絶え間ない怪物達の前進を遅らせることにした。彼らは落とし子を溶かすために炎の魔法を使ったが、数瞬後には、やつらは単純に蘇ってしまった」

『碧空の虎豹』アズール・レオパードと老魔術士ジャタンベはその力のほとんどを、協調してテンペスト=サン・メイジ達を守り、この化け物達が貫くのに何時間もかかるような強力な障壁を作りだし、解決方法を探す時間を稼いだ。戦士達を守ろうとすることによって、彼らが戦略のために割くことが出来る時間はほとんど残らなかったが、その防御への専念によってそれ以上の魔術士達が死ぬことはなかった。それでも、多くの者が重傷を負っており、それぞれが違う怪我を負っていた」

ヒオバは咳払いをして、ノートから顔を上げた。

「ジャタンベがアゴビンディを罠にかけたのはいつだったんですか? 何を知ってるの?」

女は再び、苦笑した。

「偶然だよ! 戦闘と封じ込め作戦を数日、続けた後、魔術士達は我々全員が今日、知っているある事実にぶつかってしまった:魔法は無限だ、だが我々のそれを使う能力は……無限ではないのだと。テンペスト=サン・メイジは、蓄えていた力をすっかり使い果たしてしまったのだ。疲労するほどに、動きが鈍くなっていった。老魔術士ジャタンベとその学徒には、疲弊した魔術士達を衛ことがとてつもない負担になっていった。数時間のうちに、アゴビンディの大群は集められた魔術士達を食らいつくし、風歌う都市を食らうために前へ進むだろう……そしてやがて、大ムワンギ全てを食い尽くすだろう!」

「ジャタンベと虎豹は森の中で、アゴビンディの破片達から退却する魔術士の一団のために氷のエレメンタルで出来た障壁を作り出しているところだった。戦闘の騒音と戦時の怒りのさなかで、苛立ちから『碧空の虎豹』アズール・レオパードは老魔術士ジャタンベに叫んだ」

――アゴビンディと戦うのは、敵と戦っているという感じではないな、老先生! まるで潮の流れと戦っているみたいだ、水と戦っているみたいだよ!

「その瞬間だった。師匠と弟子は動きを止め、互いに顔を見合わせた。お互いに、相手が次に言うことは分かっていた。幼子よ。マガンビヤでは、水についてどういう風に教えているのだ?」

「戦っては……ならない?」

緊張しながら、ヒオバは答えた。

「まさにその通り! 水と戦ってはならない。水の流れを助けて、それから、用意した器にそれを流し入れる。虎豹とジャタンベはあまりにも戦い、守るのに忙しすぎて当たり前のことを見逃していたのだ。ジャタンベは大きな、喜びの笑いをあげた。それを聞いた誰もが、彼のことを心配したくらいの笑いをね」

――私自身の教えを、この最後の最後に思い出すとはね、素晴らしい!

「使うべき呪文はもう分かっていた。彼はその呪文を紡ぎながら、更に笑った。そのユーモアには誰もが驚くところだが、老魔術士ジャタンベのことと思えば不思議はない。あの人はいつも予測できないところがあるからな」

女は肩をすくめた。

「一瞬の後、『碧空の虎豹』アズール・レオパードは師匠の意図を組み、何も言わずに参加した。彼らの魔術はともに、森の木々の根を強化し、それを土壌から飛び出させた。二人はテンペスト=サン・メイジ達に魔法のメッセージを送って、彼らのエネルギーをその根に向けるようにと言った。魔法の根は土壌から張りだし、数千ものアゴビンディの破片達それぞれを包み込み、位置を固定した。ジャタンベは次の段階を用意しながら、『碧空の虎豹』アズール・レオパード以外の全ての戦士達を空へと導いた」

ヒオバは書き込むのをやめた。すっかり、この不可思議な女の物語にひきこまれてしまっていたのだった。

「ジャタンベはノビをするように腕を伸ばし、大地のエネルギーを自らの肉体に張り巡らせた。バルンダーよりも深く息を吸い込み、両手と杖にエネルギーを練り上げた。他の魔術士達は後にも先にも見たことがないような最大の稲光を呼び出すための戦闘儀式に取り組んでいた」

「ついにジャタンベが息を吐き出すと、その魔法の炎が根に送り込まれた。その瞬間、テンペスト=サン・メイジと『碧空の虎豹』アズール・レオパードが稲光を解き放った。稲光は蛇行しながら、生み出された大群を通り抜けていった。奴らが再び成長する前に、炎が、激怒の声を上げる落とし子の破片を焼き、溶かして粘体にした。粘液は土壌へとしみこみ、土壌の中に網状に張り巡らされた、森全体を覆っていた根が、それらを呑み込んだ」

「絶叫が消えると、ジャタンベは炎を止めた。彼と他の魔術士達が大地へと根を戻した。破壊することの出来ないアゴビンディは水のように森に氾濫したが、水のように土壌に吸い込まれたのだ」

女は、ヒオバが研究していた木を指さした。

「その木に。そして他の木にね」

ヒオバはくるりと振り向いて、再びその木を見つめた。

「この木の中に閉じ込めらている悪い生き物のせいで、この木は黄金になってるってこと?」

「はっ、違うな。ジャタンベはこう思っただけだ。こういった美しいものに閉じ込められれば、アゴビンディは怒るかもしれない」

「えっと……待って、どうしてそんなに詳しいの? どうやってこの話を?」

ヒオバは女に向き合うために振り向いた。すると彼女は、装飾が施された豹の仮面をかぶっていた。仮面を被るとすぐに、彼女は影から光の下へと、歩み出た。

「ああ……そなたの観察力に期待してここに来たというのに、残念だよ、幼子。私はそなたに始まりを与えたのだ。研究を続けるがよい。アゴビンディをいつか、再び封じ込めなければならなくなる時が来るのだからな」

ヒオバは言葉を出そうとしたが、『碧空の虎豹』アズール・レオパードは既に立ち去っていた。


著者について

Quinn Murphy は10年以上のフリーランス生活の中で、多数のゲームシステムの設計と書き物を手がけてきた。11歳の時から、彼は友人と想像の世界を夢見ており、これからもそれをやめる気はない。彼はPathfinderとStarfinderの冒険やフィクションを書いていて、自身のTwitter(@qh_murphy)で幅広くこういったゲームやRPGの設計について話をしている。

Tales of Lost Omensについて

Tales of Lost Omensについて
Web媒体の短編創作小説のシリーズであるThe Tales of Lost Omensは、Pathfinderの失われし予兆の時代Age of Lost Omensについてのわくわくするような一幕を提供する。PiazoのPathfinder Talesの小説や短い創作小説を含む、ゲームの関連商品で最も高名な著者達の何人かによって書かれたこのTales of Lost Omensシリーズは、Pathfinderの設定にあるキャラクター、神格、歴史、場所、組織を、ゲームマスターとプレイヤー達を同じように触発するような魅力的なストーリーで紹介してくれる。


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