Tales of Lost Omens:On The Move

 ンカヤーは樹上高くであくびをした。放浪者の偵察と保護という仕事は、常に、移動中の方が楽しい。移動中は、足音に気をつけ、木々の後ろに静かに隠れたり、エクジャエの土地を通り過ぎる異邦人や訪問者を見渡せるように、ジャングルの樹冠に登らなければならない。外部の人間の動機を見極めながらこっそりと追いかけることに、彼女は生きがいを感じていた。一世紀半以上の間、ンカヤーはムワンギの外から来た旅行者がエクジャエに脅威にならないように、そして、彼らが意図的にせよそうでないにせよ、このジャングルの中心部に閉じ込められた無数の悪を解き放たないようにしてきた。

 ンカヤーはふさわしい真剣さでもってこの重要な仕事をこなしていたが、信じられないほど退屈でもあった。今のように、二人の外国人達が何事かを話しているのを見張る間、彼女は居眠りをしないようにしているのであった。ドワーフとハーフオークの二人組が話す言葉が、完全に未知の言語だったというのも、後押しになる。恐るべき行いを隠す必要がある際にブラッドコーヴのアスピス商人組合が話すアヴィスタンの言葉に似ているようだったが、言語の訓練を受けていないため、確信は出来なかった。何を言っているのかは分からなかったが、何十年もの訓練によって彼女には、彼らの意図が邪悪なものだという自信があった。しかも、彼らは歩き回っているのは――大声を出しながら――非常に古いサーペントフォークの廃墟なのだった。それはつまり、彼らがまだ脅威だということを意味していた。

彼女はうめき声を殺しながら顎を軋ませ、快適になりすぎないようにするため、姿勢を正した。野外で昼寝をするのは、このよそ者達が彼女のテリトリーを抜けて、誰か他の人の責任になった時でいい。何を探しているにせよ、このような開けた場所で時間を長く費やすほど、ただの調査どころではない危険に面することになるのだ。時として、そのことが、この仕事におけるこういった退屈な時間ですらも、無邪気で無防備なさまよい人達から彼女達の土地と、彼女の仲間、そして世界の大部分を守ってくれるのだということを思い出させてくれる。

ドワーフとそのハーフオークの仲間が、驚きに満ちた叫び声を上げた。その瞬間、ンカヤーの注意は彼らの方へと向いた。彼らの喧噪によって乱入者の存在を思い出したのは、決して、ンカヤー一人ではないだろう。彼らは廃墟の一箇所が何から作られているのか不思議がっているようだった。それは、ンカヤーがこれまで、そこにあったのに気づかなかった、奇妙な石だった。もしかしたら、状況は思ったより退屈なものではないのかもしれない!

彼女は大きめの枝から細い枝へと小走りに移動し、ついには、異邦人達の直上にひとり、腕を伸ばした長い枝に落ち着いた。ハーフ・オークの頭上10フィートもしないという近いところにいたので、もし上を見上げれば簡単に彼女を見つけることができただろうが、彼らは奇妙な石の陣形に夢中になっていた。ンカヤーが視線をひきつけようとしない限り、彼らはしばらく、上を見ることはないだろう。

荒削りの石で出来た円錐形は、底辺から先端までほぼ7フィートといったところで、地面からまるで歯のように生えていた。サーペントフォークの他の遺跡のように加工された石ではなく、古代イデルシアの構造物であることを示すようなヘビのモチーフや図像もなかった。有機的でありながら、自然の摂理からは全くの異質さを感じさせるため、訪問者の注目を集めたのも無理からぬことだった。ドワーフは鍾乳石の表面から数センチのところに手をかざしたが、邪悪なオーラを感じたとでもいうように、触れることはなかった。

いや、オーラではない。石の滑らかな表面から凍てつくような気流が絶え間なく吹き出しているのを感じていたのだ。今や、ンカヤーはそれを認識した。彼女は距離があるにも関わらず、確かな空気の流れを自らも感じた。その冷たさが、彼女の腕の皮膚に鳥肌を立たせた。確かにもっと調べるべきだが、彼女は遺跡ではなく、自分の担当、つまりドワーフとハーフオークに集中しなければならなかった。彼らが脅威ではなくなれば、戻って調べることが出来るだろう。だが、彼らが騒げば騒ぐほど、その脅威は大きくなっていった。

近隣にいる同僚が既に、この騒ぎを確認するために向かってきているのは明らかだった。ンカヤーは頭を振り、体に武器を固定しているハーネスを緩めた。良い方向に向かう前にもっと事態は悪化しそうだった。

矢を放つ音をが聞こえてくると直感が正しかったことが分かり、彼女はよそ者から、廃墟の端へと注意を向けた。もはや、ここにいるエクジャエは彼女一人ではなかった。

ドワーフとハーフオークはいまだ、石で出来た冷たい歯について騒がしく議論を交わしていた。彼らはンカヤーの同族がやってきたのに気付いていない。彼らの頭上ほんの一フィートのところで軽やかに滑って去っていったことも気付いていないだろう。外国の旅行者達の姿を見失うことなく、ンカヤーは矢が当たった場所に向かって飛び出した。

矢を見つけるにはそう長くかからなかった。節くれ立った木の幹に刺さっていたそれは、くすんだ灰色の矢羽根がついたダークウッドの矢で、明らかにエクジャエが作ったものだった。もし地上にいたなら、ちょうど目の高さくらいだっただろう。つまり、それほど大きくない何かを射貫こうとした、ということである。腰を落として矢を引き抜く。途端、思わず歯を食いしばった。ンカヤーは矢がはなたれた場所を見つけるために周囲を見渡したが、自分と同様に仲間も身を隠すのが得意だということを知っていた。相手が姿を現せば見つかるだろう。そして相手も、ンカヤーが自ら明かさなければ、ンカヤーの場所が分からないはずだ。

矢じりにはよく研がれた冷たい鉄がついており、かすかに、指先で脈打つ魔法のエネルギーを指先に感じられた。呪文はもはや起動していないが、その存在の意味を彼女は知っていた。

「デーモン」

彼女は小さく叫んだ。もし、彼女の担当する侵入者達が数ヤード離れたところで調査に夢中になっていなかったとしても、彼らに聞こえないような小さな音だった。だが、彼女は、むしろ彼らに向かって叫びかけたかった。そんなもの放っておきなさい、お馬鹿さん達。私達の土地から出ていって、理解出来ないものに首を突っ込まないで!

彼女は背中から弓を引き抜き、自由な方の腕で枝に振り上げた。彼女は素早く自分の場所に戻った。さっきまで見張りをしていた場所に。そして、この脅威がやってくるであろう方向に向かって空き地を抜けたあたりを狙って弓を構えた。冷たい空気を放つ石とデーモンが関係があるのか、単によそ者がこの場所に引きつけてしまっただけなのかは判断しかねていたが、どちらにせよ、この二人組は、ただ騒がしいというだけで、凶暴なデーモンの爪にかかって死ぬほどのことをしたわけではない。

それが近づいてくると下草が揺れた。彼女は自分自身の冷たい鉄の矢を構えた。鬱蒼とした木々の間から、巨大な体が現れた。巨大すぎて一部しか見えない。矢を放つ。それは真っ直ぐに飛んでいき、その鉄の頭部は悪魔の体を貫き、燃える。黒い影は唸りを上げた。ドワーフとその仲間は、突然、自分達だけがこの廃墟にいるわけではないと気づき、恐怖で体を強張らせたが、どうにか勇気をふるって顔を上げた。その頭上には、恐れ知らずにも新たな矢を構えるンカヤーがいた。弓の弦を弾くと、その矢は飛んでいき……そして、闇が広がった。

樹上から降りながら、彼女は呪いの声を上げた。侵入者達が立っていた場所へと急いで向かったが、暗闇の中では彼らを見つけることは出来なかった。鍾乳石から出てくる絶え間ない、冷たい気流はその場所を知らせる。そこが、ドワーフとはハーフオークがさっきまでいたはずの場所だった。彼女は耳を澄ませて彼らの声を捜したが、恐れのあまり叫ぶことすら出来ないでいるか、既にいないのか。彼女の耳は、他の声を拾い上げた。彼女の母国語で話す、二つの声。

「ハンター達!」

彼女は同胞に向かって呼びかけ返した。

「もう一度、話して。そうしたら見つけられるから。私は斥候。この闇の中でも道案内が出来る」

エルフ達は言葉に従い、左手側のどこかから、静かな声でンカヤーに合図をした。彼女はゆっくりと彼らの所へ向かった。見えない状態で、この廃墟で怪我をしたくはなかった。いくらか時間はかかったが、最後には、彼女は別の部隊と合流した。一人は軽傷だが、一人はしっかりと立っていた。

「バット氏族のンカヤーだ。母はホーク氏族。あなた達はデーモン・ハンターね?」

二人の足音から察するに、彼らは暗闇の中で手探り状態であるようだった。

「わたくしはカヨエ」

右隣から声が聞こえた。

「ヴェロキラプトル氏族のカヨエ。母はヤモリ氏族だです。我々はこのジャングルであらゆる悪しきものを駆り立てています。今日の獲物がたまたまデーモンだというだけ」

「そして私ダフィイは同じく、ヴェロキラプトル氏族だ。母はパイソン氏族。暗闇はもうすぐ消えるだろう。初めて逃げられたというわけではなくてね」

ンカヤーは溜息をついた。何も見えないままただ待つのは非常にもどかしいが、弓をしっかりとに技師目、矢を構え、警戒を緩めない。すぐに、デーモンによる暗闇のとばりは現れたときと同じように急に消え失せ、ジャングルの樹冠越しに、緑色がかった太陽の光が視界に入ってきた。ようやく視界が開け、エルフ達は背中合わせになって固まり、弓を放った。何世紀もに渡る経験によって彼らは、さっき出会ったばかりであるにも関わらず、ひとかたまりの防御陣形を築いて協働することが出来た。彼らは時計回りに回転し、六つの鋭い目と耳で、葉に覆われた地上から枝が伸びた樹冠まで、ジャングルに脅威がないかどうか目を走らせた。デーモンはいない。そして、ドワーフとハーフオークの痕跡もない。

ンカヤーは罵声を上げ、瓦礫を蹴り上げた。彼女は頭の中でこの数分間の出来事を反芻していた;サーペントフォークの廃墟、真新しいが古い、異世界の鍾乳石、デーモン、側に居るデーモン・ハンター達。

偶然だったのだ。冷たい風を吹き付ける石とデーモンに関連はない。これが恐らく、事態を興味深く、だが、複雑にしている。

ダフィイが集中して地面を凝視し、それから独り言めいた難解な言葉を呟いた後、東を指さした。

「カヨエと私はデーモンを殺さなければならない。前にも見つけられた。今回も出来るだろう。お前はどうする?」

ンカヤーは周囲の木々を見渡しながら、その答を捜した。それは、聞き覚えのある二つの悲痛な叫び声となってやってきた。あのドワーフとハーフオークは生きていたのだ!

彼女は同胞に頷くと、小さく笑った。

「どうやら、私も守ってあげなきゃいけない人達がいるみたいね。どうかしら? 同じ方向にいるみたいじゃない? これは後で戻ってきてから調べないと」

ンカヤーは、遺跡の中にある謎めいた石の方に頭を向けた。

密林の中を黙々と、そして素早く進み、東から聞こえてくる必死めいた声へ向かう。ダフィイとカヨエはその数歩、後ろをついてくる。これでいい。彼女はひとりごちた。森をさまよう者の保護という役目は、いつだって、動きがある方がずっと楽しい。


著者について
Isis Wozniakowskaは小学三年生の時分からファンタジーの短編小説を書いてきたが、TTRPGライターを目指している。これまでの作品には、Starfinder Society Scenario #3-21: Frozen Ambitions: Renewal’s Blight、そしてPathfinder Secrets of Magicへの寄稿がある。彼女のツイッターは@wozensteinだ。彼女のお気に入りのビデオゲーム・シリーズのリツイートがたくさんあっても構わないならフォローして欲しい。

Tales of Lost Omensについて

Tales of Lost Omensについて
Web媒体の短編創作小説のシリーズであるThe Tales of Lost Omensは、Pathfinderの失われし予兆の時代Age of Lost Omensについてのわくわくするような一幕を提供する。PiazoのPathfinder Talesの小説や短い創作小説を含む、ゲームの関連商品で最も高名な著者達の何人かによって書かれたこのTales of Lost Omensシリーズは、Pathfinderの設定にあるキャラクター、神格、歴史、場所、組織を、ゲームマスターとプレイヤー達を同じように触発するような魅力的なストーリーで紹介してくれる。


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