Tales of Lost Omens:嵐の前の静けさ

「ムアブリの村からは、雷光で結ばれた、金の粉をまぶした土鍋を持ってきました。村の陶工たちが陛下に遺したもので、彼らの仕事が永遠に忘れられないように……」

 クウィバは片方の耳でドラゴン・ウォーデンの第一議長の話を聞きながら、暖を取ることに集中していた。年に一度の交渉は、伝統的にクラウドスパイアから谷を隔てた平らな山頂で行われることになっており、心臓が脈打つたびに息が霧のようになるほどに、大気は冷え切っていた。ドラゴン・ウォーデンになる訓練を受けていた、亡くなった姉のジラービが言うには、この場所が選ばれたのは、6体のドラゴンを単身で相手に出来るような場所はここしかないからだということだが、クウィバはそれを口に出して言うほど愚かではなかった。

「我が雨の子たる三番目の娘は巣立ちの準備が整った。彼女も自分の縄張りを持つ時期であろう。良質な木の上に、宝物庫にして我が家となる建物を築くのだ。ムアブリの外にあった、雷に打たれたあの木はまだあるのだろうか?」

 一瞬の間、クウィバは頑丈なドワーフの農夫達が、厳つい顔をして重装備をし、羊ほどの大きさの、気まぐれで駆け出すのが好きなドラゴンを連れている姿を思い浮かべた。農夫どもの方がまだ脅威かもしれなかった。ドワーフとクラウド・ドラゴンが築いてきたパートナーシップは、こういった贈り物、領土、庇護といったものを正式なやり方で交換してきた上に成り立っている。

 更に一時間、そして二時間、三時間と経過していくと、クウィバは首に巻いた白いスカーフに霜が降りてくるのを感じた。体重を移動させると足の下で雪がぎゅっと縮まる。それでもなお、ドラゴンとドラゴン・ウォーデンの第一議長は話を続けていた。クウィバは第一議長をちらりと横目で見た。ジラービは言っていた。交渉力と同じくらい、耐久力を基準に我々は選ばれているのだと。

 そして、そのときが、来た。

「尊き王達よ」

 第一議長が言った。全てのドラゴンは王の称号を持つ。

「皆様に第二議長である血印のクウィバをご紹介します」

 それがクウィバの合図だった。このドワーフは前へ向かって歩み出た。その一歩一歩に、あらん限りの威厳を込めて。他のどのドワーフからしても、クウィバは注目すべき人物だった。カシミアのカフタンには金が刺繍されており、剣の柄には琥珀があしらわれ、眉間には深紅のリボンが結ばれている。クウィバは切実に願った。ドラゴンたちもまた、同じように心動かされてくれればいいのだが。

「空と雲の尊き王にして畏るべき嵐の御祖(みおや)、その怒りにより稲妻を、その慈悲により長き干ばつの後の雨を降らせる御方々」

 クウィバの声は山頂に反響し、彼の前に集まっている偉大なる存在に、はっきりと言葉を伝えた。

「わたくしが罷り越しましたのは、血色のまなこと呼ばれるクレレンのタブシン王よりの申し出をお伝えするためでございます」

「どのような申し出だというのだ、第二議長よ」

 ドラゴンのうちの一匹が、霧のような声で囁いた。柔らかいが、聞き逃されることのない声だった。

「以前にあの者が戦争をするという計画は耳にしたが、興味はないぞ」

「本日は、戦のための申し出ではございません。これは裁きでございます。戦でははく、誅殺でございます」

 クウィバは滑らかに、そう、口にした。彼は伝統的な演説家のポーズを取り、片手を差し出した。

「尊き君の皆様よ、ご存じおいて頂きたい。乾季の終わる最後の日、「嵐の日」を祝わんとする略奪者の都ブラッドコーヴにて、水没せしリルゲンより持ち去られし宝が大きなオークションにかけられるのです。鎖の海の海賊評議会のほとんどが臨場することになっております。耳にしたところでは、あの「嵐の女王」その人、テッサ・フェアウィンドも現れるとか」

「いかにしてそれを知り得たというのか、第二議長よ」

 別のクラウド・ドラゴンは山頂を引き裂くような声で尋ねた。その声によって、小さな雪崩が起きた。

 クウィバはこれを尋ねられることを待ち望んでいたのだった。大きく腕を振り上げ、彼は丁寧に、集まっている長命竜達にお辞儀をした。

「わたくしめがこれを存じておりますのは、尊き君の皆様よ、このわたくしめこそが、そのオークションを行うからでございます」

 その言葉はドラゴン達の注意を惹きつけた――更に、ドラゴン・ウォーデン達の目をも。クウィバは小さく笑った。笑うことを、己に許した。あの悪臭漂う街で海賊から海賊へと渡り歩き、ふさわしい突破口を作るのに、ほぼ二年間がかかった。リルゲンのアーティファクトを提供してくれたのはタブシン王だった。いかなる方法によってかは判然としない。だが、この日を迎えたのはクウィバの働きによるものだった。ブラッドコーヴは整然とした、調和のとれた城塞都市クラウドスパイアとは全く異なる場所だった。暴力、強欲、そして誓いを破る者の都市だった。しかし、ドワーフはそこでも生きてゆくことが出来る。海賊の盗品を買う者のほとんどがそれをムベケに送り返すが、ムベケの敵と取引をする薄汚い売り手もいた。クウィバはそういった売り手になりすましたが、もう二度と清らかな気持ちにはなれないのではないような気がした。

「自由船団の長たちは愚かではございません。彼らは裏切りに備えていることでしょう」

 クウィバは沈黙が続く中、言葉を紡いだ。

「ですが、裏切るのはお互いか、わたくしめであると考えているはずです。奴らの船は港に停泊しているでしょうし、船乗り達は戯れており、副官や風見鶏どもは護衛のために船長に同行していると思われます。突然の嵐を前に、船はほとんど無力になると言って良いでしょう。誉れ高き雷の君よ」

 クウィバは最後の餌を投げ込む前に、言葉を切った。

「そして、奴らの船には今季に略奪した戦利品が大量に積まれていること必定でございます」

「なるほど、興味深いな。第二議長よ」

 凍てつくような声で言ったのは、最年長のドラゴンだった。

「よく検討し、三日の後に答を告げることとする」

「血印の大使よ、質問が一つある」

 若い竜がそう言って、前方へと体躯を伸ばした。すると、クウィバの目にはその角にまだ新しい傷跡があるのが見えた。

「そなたの王の計画が船を破壊することならば、海賊達そのものはなんとするのだ?」

「船なき海賊でございますか。誉れ高き王よ。それはもはや、殻を失った海亀に等しいもの」

 クウィバはそう言って、山に積もる雪よりも冷たい笑みを浮かべた。

「海賊評議会がブラッドコーヴに閉じ込められているのであれば、タブシン王が山より軍勢を走らせて都を占領するのはたやすいこと。奴らに裁きを与えましょう。その罪を宣告いたしましょう。そして、あらゆる木の一本一本、あらゆる戸口の一つ一つにあの海賊どもを吊しあげるまででございます」

 その時こそ、ジラービよ。やっとお前の無念が報われる。


著者について

Mikhail Rekunはロシア系アメリカ人の歴史家で、教育者で、作家である。Lost Omens Mwangi Expanse、Lost Omens Legends、Pathfinder Society Scenario 1–15: Blooming Catastrophe、Pathfinder Society Scenario 2–8: Frosty Mug、そしてHow Russia Lost Bulgaria, 1878-1886: Empire Unguided.といった作品がある。こういった作品のうちに、他と一線を画するものがある。彼は、Weird Fantasy SwashbucklerによるPF2のためのキャンペーン設定であるLuminant Age(ヴァンパイアのアリクイ犬や透明なオウルタイガーがいる)というプロジェクトのクリエイティヴ・ディレクターでもある。https://twitter.com/LuminantAで詳しい情報を知ることが出来る。次のKickstarterに備えてチェックしておこう。

Tales of Lost Omensについて

Web媒体の短編創作小説のシリーズであるThe Tales of Lost Omensは、Pathfinderの失われし予兆の時代Age of Lost Omensについてのわくわくするような一幕を提供する。PiazoのPathfinder Talesの小説や短い創作小説を含む、ゲームの関連商品で最も高名な著者達の何人かによって書かれたこのTales of Lost Omensシリーズは、Pathfinderの設定にあるキャラクター、神格、歴史、場所、組織を、ゲームマスターとプレイヤー達を同じように触発するような魅力的なストーリーで紹介してくれる。


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